本日のランチ
焼き台から立つ香りというものは、ときに料理そのものより早く、今日の味を知らせてくれる。店の引き戸を開けた途端、麦味噌の柔らかな焦げ香と、魚の皮が焼ける乾いた匂いが鼻先へ届いた。
御膳の中心は、かますと伏見甘長の麦味噌焼き。銀白色の皮をところどころ残したかますに、麦味噌が薄い焼き膜となって重なっている。隣には、軽く焼き目のついた細長い伏見甘長。麦味噌色、銀白、深緑という控えめな配色が、いかにも夏の和定食らしい。
まず、かますの身へ箸を入れる。表面は乾いて香ばしいが、その内側から現れる白身はふっくらとしている。繊維に沿って軽くほどけ、舌の上では淡い脂がゆっくりと広がった。
麦味噌は厚く塗られていない。銀皮が透けるほどの薄さだからこそ、最初に焼けた麦の香りが立ち、その後から味噌の穏やかな塩気とかますの旨みが現れる。甘いたれで魚を包み込むのではなく、その淡泊さへ香ばしい輪郭を一本加えるような使い方だ。
皮目を口にすると、身とは異なる魅力がある。銀皮のすぐ下にある脂と、味噌の焼けた部分が重なり、噛むほどに香りが濃くなる。しかし焦げ味は強くなく、後口には少量の生姜汁らしい清涼感がかすかに残った。
続いて伏見甘長をかじる。薄い皮には軽い焼き目があり、内側から青々とした甘みが戻ってくる。辛さで魚を引き締める唐辛子ではない。麦味噌の余韻を軽くし、次の一口を新鮮にする夏野菜である。
大根おろしをかますへ少量添えると、味わいはさらに明快になった。水分と辛みが焼き面の香ばしさを洗い流すのではなく、脂と味噌の塩気を一度整えてくれる。白ご飯を挟めば、麦味噌の香りが再び穏やかに立ち上がった。
冷やし豆腐と青ねぎの小鉢は、焼き物の熱から口を休ませる一品。玉ねぎと若布の澄まし汁には玉ねぎの自然な甘さがあり、香ばしい主皿とは別の方向から御膳全体を丸くまとめている。大根の浅漬けの歯切れも、柔らかな白身との対比として心地よい。
昨日の鶏むね肉とずいきの生姜葛煮が、透明な葛による滑らかな温もりを味わう料理だったなら、今日は焼き面の乾いた香りと、箸でほどける魚の繊維を楽しむ一膳である。
かますを覆い隠さない麦味噌、味噌に負けない伏見甘長、そして銀皮の下に残された淡い脂。強い味を重ねず、それぞれの香りが立つ場所を譲り合う、端正な夏の焼き魚御膳だった。
次回予告
次回、8月6日は「烏賊と空心菜のにんにく醤油炒め御膳」。
焼き魚と麦味噌の穏やかな香ばしさから、今度は中華鍋で一気に立ち上がる火と醤油の香りへ。弾力を残した烏賊、茎の空洞まで瑞々しい空心菜、食欲を呼ぶにんにく。その勢いある炒め上がりを訪ねたい。
田嶋達郎
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