「また、その子を抱えているのかい」

街灯の光だけが円形に切り取る歩道で、私は足を止めた。銀色の髪をした少女は、いつものように黒い毛並みの猫を抱きかかえて立っていた。彼女の瞳は、まるで遠い異国の星を閉じ込めたかのように、夜の闇の中で黄金色に輝いている。

「この子は、道に迷ったわけじゃないの」

少女は静かに言った。その声は、冷たい空気に触れて透き通る鈴の音のようだ。彼女が抱く黒猫が、金色の眼を細めて私をじっと見つめる。

「じゃあ、どうしてそこにいるんだ?」

「ここは、別の場所へ繋がるただの『踊り場』。次元の隙間のようなものね」

少女は私のすぐ足元、光の円の外側を指さした。そこには何もない。ただのアスファルトが続いているだけだ。

「さっきまで、あなたが落としてきたものを拾ってきただけ」

彼女の手の中で、黒猫が小さく鳴いた。次の瞬間、少女は足元の闇に、インクを垂らしたように滲んで消えた。その瞬間にだけ、冬の夜とは違う、凍りつくような冷気が通り抜けた。後に残されたのは、街灯の光と、アスファルトの上に落ちていたはずのない一枚の古い銀貨だけ。

私はそれを拾い上げ、もう一度だけ空を見上げた。今夜の空には、見たこともない星座がひとつ、妖しく瞬いていた。

呪文

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