波打ち際に浮かぶ月が、いつもよりずっと大きく見える。華やかな着物に身を包んだ少女、ルナは、足元を洗う潮の音を聞きながら、ぼんやりと空を見上げていた。

「……えっと、これで合ってるのかしら?」

ルナは緊張した面持ちで、持っていた灯籠をそっと海に放した。すると、どこからともなく老人の声が響き渡る。

「おお、月の巫女よ。ついに我らを導きに来てくれたか!」

驚いて振り返ると、そこには奇妙な仮面を被った集団が整列していた。彼らは何やら呪文のようなものを唱え始め、周囲の空気が妙な熱を帯びていく。

「ちょ、ちょっと! 何が始まるの?」
「巫女様、まずはその場で三回回って、月に向かって甘いお菓子を掲げてください!」

ルナは戸惑いながらも、言われるがままにくるりと回る。手元にあったお饅頭を掲げると、集団が一斉に歓声を上げた。

「素晴らしい! 月の加護だ!」
「……え、これただの私の夕食なんだけど」

ルナが引きつった笑顔で呟くと、仮面の男たちは神妙な顔つきで頷き合う。

「なんと、夕食を捧げるとは……。なんと謙虚な……!」

彼らの目には、ルナのただの動作が、壮大な儀式のように見えているらしい。結局、ルナは彼らが満足するまでお菓子を配り歩き、気づけば夜が更けていた。

「もう二度と、夜の散歩なんてするもんじゃないわね」

重い足取りで歩き出す彼女の後ろで、男たちが涙ながらに拝んでいる。そんな夜の出来事を、ルナは誰にも話すことができなかった。

呪文

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