「ちょっと、待ってよチロ! 勝手に行かないでってば!」

太陽の光を透かす銀糸のような髪を、初夏の柔らかな風になびかせながら、リコは広大な花畑の真ん中で声を上げた。手には、さっきまで追いかけていた愛犬の尻尾……を掴んだつもりが、なぜか立派な一輪の白い花をドヤ顔で握りしめていた。

「クゥーン」

返事をしたのは、足元の花に埋もれてお尻だけ出している白い毛玉だった。

「もう、いきなり駆け出すからびっくりしたじゃない。せっかく特急を乗り継いで来たのに、ここがどこだか分かってるの? 地図には『一生に一度は見たい絶景』って書いてあったけど、絶景が広すぎて出口すら見当たらないじゃない!」

リコは大きな麦わら帽子を抑えながら、ぷはっと吹き出し、あはは!と明るく笑い飛ばした。一人と一匹で気ままな遠出を楽しんでいたはずが、いつの間にか見渡す限りの白い花と、遠くに輝く雪山に囲まれていた。

「ねえチロ、見て。このお花、あなたのしっぽみたいにふわふわ。……あ、食べちゃダメよ! それはお土産にするんだから」

リコは花を大切そうに胸に抱え、太陽に向かって満面の笑みを浮かべた。

「ま、いいわ! お腹が鳴るまでここで遊びましょ。ほらチロ、あっちの山まで競争よ。負けたら今日の晩ごはんは、とびきり美味しいお肉の缶詰、おあずけなんだからね!」

少女の明るい声が、雲ひとつない青空へと吸い込まれていった。

呪文

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