「あの、あなた」と、彼女は部屋の空気を一瞬だけ静まり返らせるような不思議な雰囲気で私を呼んだ。「私のドレス、何かが足りないと思いませんか?」

深海のようなブルーのドレスを纏い、まるで部屋の影からふわりと浮かび上がったかのように現れた少女、ライラは、首元の青い薔薇を指先でなぞりながら小首をかしげた。私の部屋にふらりと現れ、唐突にそんなことを言い出すものだから、私は持っていた紅茶をこぼしそうになった。

「足りないって……完璧じゃないか。すごく似合ってるし」
「違います。これでは、私の威厳が足りないのです」

ライラはふん、と少しだけ膨れっ面で鼻を鳴らした。威厳。その響きが彼女の可愛らしい見た目と全く噛み合っておらず、思わず吹き出しそうになるのを必死に堪える。

「具体的には?」
「そうですね、例えば……頭の上に小さな王冠を乗せるとか。もしくは、背中にマントを羽織るとか」
「いや、王冠はともかく、マントは重苦しいだろ。今のままで十分、高貴に見えるよ」
「本当ですか? 社交界の皆さまも、そう言ってくれるといいのですが」

ライラは満足げに瞳を輝かせ、ふわりと裾を揺らした。彼女がくるりと回ると、不思議なことに部屋の空気が少しだけ甘い薔薇の香りに包まれる。

「ねえ、そのドレス、どこで買ってきたんだ?」
「内緒です」と彼女はいたずらっぽく人差し指を唇に当てた。「私のクローゼットには、気がつけば服が増えているんですよ。魔法みたいに」

そう言って、彼女はいたずらっぽく笑った。結局、彼女の正体も、そのドレスの由来も分からないまま。ただ、彼女の気まぐれな来訪は、退屈な私の日常を彩る何よりのスパイスとなっていた。その時間が続くことが、今の私にとってのささやかな日常であり、非日常だった。

呪文

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