「ねえ、ゆみ。まだ撮れないの?」

莉子は完璧な笑顔を浮かべたまま、喉の奥でささやいた。首の角度は三十度、完璧な上目遣い。両手を顎に添えたポーズは、我ながら計算尽くされた天使の愛らしさだ。

「待って! 桜と光のバランスが絶妙だから、そのまま動かないで!」

ゆみはカメラを構えて楽しそうだ。だが、莉子の両腕はとっくに悲鳴を上げていた。

「もう三分は経過してない!? 二の腕が生まれたての子鹿みたいにプルプルしてるんだけど……!」

「あ、莉子ちゃん、ちょっと震えてる? もっと自然にね!」

「自然って言われても! 筋肉が限界なんだよ!」

ぷるぷると震え出す二の腕。ひらひらした可憐なフリル袖の奥で、アスリート並みの乳酸が溜まり、筋肉がちぎれんばかりに耐えている。

「ほら、風が吹いた! 今だよ、笑って!」

「ふ、ふふ、こう……?」

「莉子、顔がちょっと引きつってるよ?」

「限界なの! 腕立て伏せをずっとやってる気分なんだから!」

震える手首で顎を必死に支えながら、莉子は涙目で引きつった笑みを向けた。

「最高! あと三枚だけ撮るね!」

「早くしてぇ! 私の腕が力尽きる前に!」

桜が舞い散る美しい春の日、誰も知らない、涙ぐましい筋肉の努力によって、この奇跡の一枚は生み出されていたのだった。

呪文

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