「これ、見て」

千歳は淡いピンクのコートのポケットから、ひょいとカードを取り出した。マフラーに埋もれた顔を少しだけ出し、得意げにこちらを見ている。手の中にあるのはハートの三だ。

「……何? いきなり」

「勝負。負けたら、美味しいカフェオレを奢ること」

唐突な提案に、僕は少し呆れながらも笑ってしまった。彼女は風に揺れる前髪を整えると、真剣な眼差しをカードに向ける。その瞳が、まるで宝物を見つけた子供のように輝いていた。

「僕が勝つと思う? 確率は半々だよ」

「違うの。これはね、運命を占うカードなの」

彼女はそう言うと、カードをくるりと指先で回した。器用なものだ。

「で、結果は?」

「えっと……今日の晩ご飯が、とびきり美味しくなる予感!」

彼女はペロリと舌を出し、悪戯っぽく笑った。結局、勝敗なんてどうでもいいのだ。この穏やかな午後に、彼女が見せた小さな遊び心。それだけで、今日の予定は全部塗り替えられてしまった。

「わかったよ。カフェオレ、奢るからさ」

「やった! じゃあ、今すぐ行こう!」

彼女は軽やかな足取りで歩き出す。その後ろ姿に、僕は少しだけ心躍らせながら続いた。平凡な一日が、少しだけ鮮やかに色づいていくのを感じながら。

呪文

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