「ちょっと、詩織! いつまでそこに突っ立ってるのよ。早く車に戻らないと、せっかく買ったアイスが飲み物になっちゃうわよ!」

背後から響く美波の遠慮のない声に、私は大げさに肩をすくめてみせた。

「静かにしてよ。今、私は大自然とシンクロして、奇跡の一枚を撮ろうとしてるんだから」

夕闇に溶けゆく海と、淡い紫のラベンダー。これ以上ないロケーションだ。私はピンク色の髪を風になびかせ、精一杯「儚げなヒロイン」を演出してみせる。

「シンクロって、あんたの頭、完全にラベンダーに擬態してるわよ。遠くから見たら、ただのピンク色のカリフラワーじゃない」

「カリフラワーって言わないで! これ、入院中のおばあちゃんに見せるんだから。病室がパッと明るくなるような、一番綺麗な私の写真をね」

美波は一瞬だけ口を閉ざすと、わざとらしく鼻を鳴らした。

「……ふん。まあ、その顔なら少しは薬になるかもね。ほら、もっと顎を引いて。こっち向いてよ」

「え、撮ってくれるの?」

「いいから早くしなさい。アイスが完全に液体になる前に終わらせるわよ」

毒舌な姉が構えるカメラに、私は少し照れくさく、けれど最高の笑顔で向き合った。

「一番そばにいてほしい人には、やっぱり一番綺麗なところを見せたいじゃない?」

私の言葉をかき消すように、カシャリと心地よいシャッター音が響いた。

呪文

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