「まったく、とんだ迷惑な客だよ」

ぼくは屋根の上にちょこんと座り込む小さな影を見上げて、思わずため息をついた。夜空に浮かぶ大きな三日月を背負って、長い耳を揺らしている少女。彼女は楽しそうに足をぶらぶらさせながら、ぼくの視線に気づいてにっこりと笑った。

「こんばんは! ねぇねぇ、この場所ってすごく眺めがいいね。ここからだと街が全部おもちゃ箱みたいに見えるよ」

「だからって、なんでぼくの家の屋根なんだよ。他にも高い所なんていくらでもあるだろうに」

「えー、だってここが一番居心地よさそうだったんだもん」

彼女はそう言うと、持っていた大きなニンジンをポリポリとかじり始めた。屋根の上で夕食にするなんて、まったく呆れた訪問者だ。

「というか君、人間じゃないよね。その耳はどうなっているんだ」

「ふふん、それは見てのお楽しみ! それよりさ、この後どこか面白いところへ連れて行ってくれないかな? もっと高いところとか、星に近い場所とか!」

「無理だ。ぼくはもう寝る」

「ケチだなぁ。ねぇ、少しだけ! 少しだけだからさ!」

彼女は屋根から飛び降りると、ぼくの服の裾をぎゅっと掴んで離さない。赤い瞳をきらきらとさせて、あざといくらいに上目遣いでこちらを見つめてくる。

「あー、もう分かったよ。分かったから、その手を離せ」

「やった! さすが優しいね!」

結局、ぼくはため息をつきながらも、この突飛な夜の来訪者に付き合う羽目になった。静かだったはずの夜が、一気に賑やかになりそうな予感がした。

呪文

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