「ねえ、これ、落としたわよ」

川沿いの草むらに座り込んでいた少女が、唐突に声をかけてきた。紫色の髪が夕風に揺れる。夕陽を背負った彼女は、この世のものとは思えないほど浮世離れした笑みを浮かべていた。

「え?」

ぼくは立ち止まる。手にはただ、空虚な重みだけが残っていた。

「違う、それじゃないわ。君が置いてきたもの」

少女は手元にある透明なボトルを指差した。中には水ではなく、夜の断片を閉じ込めたような小さな光の粒が、静かに渦巻いている。

「そんなの、知らないよ」
「知らなくていいの。ただ、重たそうだったから」

彼女はボトルを芝生に置くと、すっと立ち上がった。その動きはあまりに滑らかで、まるで風に溶け込むようだった。

「待って、君は誰?」

問いかけようと振り向いたとき、そこにはもう、夕闇の気配しかない。あるのは、草むらに残された一筋の足跡と、夕暮れに溶けるように消えていく微かな残り香だけ。

手元を見ると、いつの間にか握りしめていたはずの鞄が、羽のように軽くなっていた。ぼくは、確かに何かを、ずっと遠い日のどこかへ置いてきてしまったのだと、胸の奥で悟った。

呪文

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