1925年7月18日――つまり約100年前の今日、一人の男が収監中に書き上げた書物が出版されました。


男は1923年11月のミュンヘン一揆の失敗で挫折を味わうことになりましたが、意外にも同情的であった看守や面会者の支援によって落ち着きを取り戻します。
獄中での待遇は極めて良好で、政治犯であるが故に労務を課されず空いた時間を活用するためにチェンバレン・ニーチェ・マルクス・ランケなどの大量の思想書を差し入れて貰って自らの思想構築を模索していきます。
その中で現在に至るまでの自分の生い立ちにも振り返り、思想書を兼ねた自伝の執筆に取り組み始めました。
口述筆記を務めたのはエミール・モーリスとルドルフ・ヘス。
何の因果か彼ら2人はその男と大変近しい関係でありながら終戦後も長く生き続けています。


1925年7月18日に発売された上巻は自伝であり、翌1926年に出版された下巻は思想書としての性格を有しています。
重版を見込んで印税収入を出所後の活動資金とする計算だったようですが、当時の一般書の約2倍という高額が災いしたのか思ったより売れず、下巻が発売された次の年までに上巻下巻の累計で2万部程度の売上に留まっています。
本格的に売れるようになったのは支持層の拡大が顕著になった1930年以降でした。


なお内容的にはいわゆる『若気の至り』な点が強いことは当の筆者自身も感じていたようで、外交政策に主点を置いた『第二の書』の原稿も作成していましたが生前にそれが日の目を見ることはありませんでした。
なお内容自体を改定する気は全く無かったようで、後年の記者の批判に対して、
「私は改訂版を準備中の作家などではない。私は偉大な歴史という本の中で改訂を行うつもりだ!」
と(いつもの演説口調で)言い返したとされています。


終戦後に『我が闘争』の著作権は没収され、ドイツ国内においては東西分裂解消後も一切の複写および印刷が長らく禁止されていました。
その一方でドイツ以外の各国においては翻訳本が普通に流通し、通販でドイツ国内からも取り寄せ可能だったことが問題視されたこともあります。
著者の死後70年を経て著作権が消滅したことを受け、2016年にミュンヘンの現代史研究所が学術版を出版。
現在ではドイツ国内でも書店での入手や一般の閲覧が法的に許可されています。
ただしヘイトスピーチなどを禁じる刑法に基づき、賛美する目的での悪用は厳罰。
なおユダヤ人やイスラエルに反感を持つ人々が多い中東地域では現在でも人気が高く、特に2000年以降は若者の間でベストセラーになることも珍しくありません。


『我が闘争』が世に出て100年。
今でもこの書籍は世界に様々な問題を問いかけ続けています。

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