「……あの、もう十分ではないでしょうか。指先が、少し感覚を忘れてきたみたいで」

湖畔に夕闇が迫る中、ベンチに座るシオリが小さな声で溢した。紫色の髪が夕風に揺れ、真っ赤なマフラーに埋めた口元から、白く細い吐息が零れ落ちる。

「ごめん、つい。背景のオレンジ色と君の瞳の色があまりに綺麗で、言葉を失っていたよ」

私がカメラを下げて謝ると、彼女は視線を泳がせ、膝の上で指を組んだ。

「……お世辞は、雪と一緒に溶けてしまいますよ。このセーターも、おばあちゃんが『寒がりな私でも外に出られるように』と編んでくれただけの、ただの厚着ですから」

彼女はゆっくりと立ち上がり、遠くの雪山を静かに見つめた。その横顔はどこか儚く、瞬きひとつで消えてしまいそうな危うさがある。

「ねえ、今の写真……もし、もしも上手く撮れていたら、一枚だけ頂いてもいいですか? 自分がどんな顔で冬を見ているのか、少しだけ気になって」

「もちろんだよ。最高の瞬間が撮れたと思う」

「……そうですか。なら、よかったです」

彼女は控えめに、けれど確かに口角を上げると、音を立てないように雪の上を歩き出した。その静かな後ろ姿は、夕暮れの北の大地に溶け込む、優しい魔法のようだった。

呪文

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