「……遅い。遅すぎるわ」

ベッドの上で膝をつき、かれこれ三十分。ウサギの耳をピンと立てた状態で静止しているナギサは、ぷっくりと頬を膨らませた。

「これだけ気合を入れて準備したのよ? 扉が開いた瞬間に『ぴょん!』って飛び出して、腰を抜かすほど驚かせてあげるつもりだったのに」

今日は、いつも世話を焼いてくれる姉の誕生日だ。驚かせようと新調したパジャマに身を包み、カチューシャまで装着して待ち構えているというのに、主役がちっとも帰ってこない。

「あー、耳が重くなってきた。もしかして、帰る場所を間違えたのかしら。それとも、道端でニンジンでも拾ってるの?」

独り言が部屋に虚しく響く。窓の外では、夕暮れの陽光が観葉植物を優しく照らしている。あまりの静かさに、ナギサのまぶたが次第に重くなってきた。

「だめよ、寝ちゃだめ。今寝たら、ただの『寝ているウサギ』になっちゃう。私は『奇襲をかけるウサギ』なんだから……」

必死に目を見開くが、ふかふかのシーツの誘惑には勝てそうにない。

「よし、あと十秒。十、九……八、点五……。もし次に扉が開かなかったら、この作戦は明日に持ち越しなんだからね!」

そう宣言した直後、玄関からカチャリと鍵の開く音がした。ナギサの耳が再び、誇らしげにピンと跳ね上がった。

呪文

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