本日のランチ
八月も十日。外へ出れば、照り返す陽射しに思わず目を細める。
そんな盛夏の昼に目の前へ置かれたのは、湯気とは正反対の景色だった。
涼しげな浅鉢を満たす、澄んだ潮だし。その中に真鯛の薄桃色と、おかひじきの鮮やかな緑が浮かぶ。見た目からして温度が一段低い。
まずは潮だしをひと口。
塩味を強く押し出したものではない。昆布を土台にした静かな旨みに、鯛から出た味が重なっている。冷えているからこそ余計な輪郭が引っ込み、舌の上には魚の旨みだけがすっと残った。
続いて真鯛へ箸を伸ばす。
皮目には湯が当てられているため、身の柔らかさの中に小さな弾力がある。噛むと白身らしい淡い甘みがじわりと現れ、それを潮だしの塩気が追いかける。
ここへ、おかひじき。
細い茎を噛んだ瞬間の、シャキッとした歯切れが実にいい。真鯛がしっとりと舌へ寄り添うのに対して、こちらは歯の間で軽快に弾ける。同じ鉢の中にありながら、二つの食感がきれいに役割を分けている。
そして、すだち。
強く搾って酸味を利かせるのではなく、鼻へ抜ける青い香りが潮だしの後味を細く整えていく。
白ご飯をひと口含んでから、もう一度真鯛へ戻る。
冷たい鉢を主役にしていながら、食事として物足りなさを感じさせないのは、鯛そのものの旨みがしっかりしているからだろう。南瓜の薄煮を挟めば、ほのかな甘みが塩味の間に入り、口の中の景色も変わる。
食べ終える頃まで、印象に残ったのは派手な調味ではなかった。
鯛の弾力。
おかひじきの歯切れ。
冷たい潮だし。
そして、最後に鼻へ抜けるすだち。
盛夏の一膳は、味を重ねるよりも、ひとつひとつを澄ませることで涼を作っていた。
次回の食彩探訪は、
「鶏もも肉と新蓮根の黒酢照り焼き御膳」。
冷たい潮だしの翌日は一転、鶏皮の焼ける音と黒酢の立ち香へ。
新蓮根の歯切れと、艶のある照りが食欲を呼ぶ、温かな一皿を訪ねます。
田嶋達郎
呪文
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