「……よし、今だ!」

広大なスタジアムの中央、フリルのついた豪華な黒いドレスを翻し、少女は鋭い眼光でボールを見据えた。
周囲には誰もいない。観客席は空っぽだ。しかし、彼女の中では大歓声が響き渡っている。
少女はふわりとスカートを広げ、次の瞬間、まるで別人のような精密さでボールをトラップした。

「右サイドからのクロスを想定して、ワンツー……からの、強引なシュート! えいっ!」

可愛らしい靴でボールを叩くと、それは綺麗な放物線を描いてゴールネットの端っこに突き刺さった。

「決まった! 今のゴラッソ、スタジアム中の観客が総立ちだね」

満足げに頷く彼女を、スタジアムの巨大な照明だけが照らしていた。
そこへ、様子を見に来たメイド姿の老婦人が、呆れたようにため息をつく。

「お嬢様、また一人でサッカーの練習ですか。その格好だと動きにくいでしょうに」

「違うのよ、これは戦うためのユニフォームなの。……まあ、スカートが少しひらひらしすぎてオフサイド判定されそうだけど」

「お嬢様、サッカー用語を使いこなすのは結構ですが、まずは着替えを……」

「わかってるって。あと五分だけ。今の角度、もう少し右からの方が完璧だった気がするから」

少女は再びボールをセットする。その瞳には、どんなプロ選手にも負けない熱い情熱が宿っていた。

呪文

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