6/12 / 食彩探訪 / 豚しゃぶと香味野菜の柚子胡椒だれ御膳

朝から空が重かった。
雨はまだ本降りではないが、通りの空気には水気があり、青葉の色だけが妙にはっきりして見える。店に入ると、外の湿度を一枚脱ぐように、客席の空気がすっと落ち着いた。厨房から届く湯気は強すぎず、白い皿を用意する音が小さく響いている。

今日の膳は、豚しゃぶと香味野菜の柚子胡椒だれ御膳。

主皿には、薄く茹でられた豚肉がふわりと重なり、その上に大葉、茗荷、胡瓜、白髪ねぎ、水菜が高く盛られている。中央には大根おろしと青ねぎ。肉の白さと薬味の緑、茗荷の淡い紅が、梅雨前の昼にちょうどいい涼しさを作っている。冷しゃぶサラダではなく、きちんと白飯の横に座る肉の一皿だ。

まず、豚肉を一枚。
茹で加減がいい。薄い肉なのに、ぱさつかず、舌に触れるとやわらかくほどける。脂は重くなく、噛むほどに豚肉の甘みが出る。その甘みのあとで、柚子胡椒の香りが鼻先へ細く抜けた。辛みは強くない。けれど、輪郭ははっきりしている。

香味野菜を重ねると、料理の表情が変わる。
大葉は青く、茗荷は少しだけ華やかで、白髪ねぎは歯ざわりを足す。胡瓜の冷たい噛み心地が入ると、豚肉の甘みがさらに軽くなる。水菜は全体をふわりと持ち上げ、皿の中に風を通すような役目をしていた。

柚子胡椒だれは、主張しすぎないのがいい。
全体を緑色に染めるのではなく、肉の艶と薬味の隙間に静かに入り、食べた後にだけ香りを残す。大根おろしを少し絡めると、肉の温度がさらにやわらぎ、湿度の高い昼でも、箸の運びが重くならない。

小鉢の冷やし茄子の出汁びたしは、実に相性がよかった。茄子は出汁を含んでやわらかく、主皿の柚子胡椒とは別の静かな涼しさを持っている。豆腐と三つ葉の澄まし汁は軽く、胡瓜の浅漬けは最後に口の中を整える。白ご飯は、肉の甘みと薬味の香りを受け止める、素直な相棒である。

昨日の枝豆と穴子のちらし寿司が、酢飯と穴子で器の中を明るくする御膳だったとすれば、今日は香味野菜と柚子胡椒で、肉料理を涼しい方へ連れていく一膳だ。豚肉を使っていながら、揚げ物の重さには向かわない。だが物足りなさもない。そこが、この昼膳のよさだと思う。

食べ終えるころ、皿に残った薬味の香りまで心地よかった。
雨前の湿った昼に、肉をこう軽やかに出してくれる店はありがたい。腹は満ちるが、気分は濁らない。そんな一膳だった。

次回は「厚揚げと夏野菜の塩麹焼き御膳」。
豚しゃぶの涼しさから、塩麹の香ばしい焼き物へ。

田嶋達郎

呪文

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