「おーい、ナナミ!起きてる?……って、あちゃあ。完全に『春の魔法』にかかってるわね」

姉のサユリが部屋に入ると、そこにはベッドと同化したナナミの姿がありました。

「……んぅ……あと、五光年……」

「単位がおかしいでしょ。宇宙の果てまで寝るつもり?ほら、今日は一緒に買い物に行くって言ったじゃない」

サユリが肩をゆすりますが、ナナミは微動だにしません。それどころか、幸せそうに頬を緩ませてスウスウと寝息を立てるばかり。

「ナナミさん、聞こえますか?外はポカポカ、桜も満開。絶好の外出日和ですよー」

「……むにゃ……桜は、わたあめにして、食べた……から……もう、いいの……」

「食ったのかよって、ツッコミたくなるわね。想像力が豊かすぎるわ」

サユリはクスッと笑いながら、彼女の横に腰を下ろしました。窓から差し込む日差しは、確かに抗いがたいほどの心地よさです。

「なあ、そんなに眠いの?」

「……お姉ちゃん……今、この部屋だけ……重力が、地球の100倍……あるんだよ……」

「嘘おっしゃい。私はピンピンしてるわよ」

「それは、お姉ちゃんが……元気な、野生児だから……。私は、繊細な……羽毛、だから……沈んじゃうの……」

「誰が野生児よ。……まあいいわ。そんなに言うなら、あと10分だけ待ってあげる」

「……10分は、まばたき……一回分……」

「寝る気満々じゃない!」

結局、サユリもそのポカポカした空気に当てられ、ナナミの足元で船を漕ぎ始めてしまいました。

「……お姉ちゃんも、野生児から……ナマケモノに、変身ね……」

「うるさい。……春のせいよ、全部」

二人の静かな寝息が、春の風に乗って窓の外へ溶けていきました。

呪文

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