6/16 / 食彩探訪 / とうもろこしと卵の出汁巻き御膳

雨の気配が残る昼だった。空は白く曇り、路地の緑もどこか湿って見える。そんな日に店の引き戸を開けると、厨房の奥から、卵を焼くやわらかな香りが届いた。

今日の一膳は、とうもろこしと卵の出汁巻き御膳。

客席に置かれた主皿は、まず色が明るい。ふっくら巻かれた出汁巻き卵の黄色。その断面に、とうもろこしの粒が点々と入っている。添えられた大根おろし、三つ葉、青ねぎが、卵の色をさらに軽く見せている。

箸を入れると、卵はすっとほどける。しっかり焼かれているのに、芯はやわらかい。出汁を抱えた卵の中から、とうもろこしの甘みが小さく弾ける。派手な甘さではない。噛んだ瞬間だけ、初夏の粒がぽんと顔を出す。

出汁の加減もいい。卵のやさしさを支えながら、後味をだらりと重くしない。大根おろしを少しのせると、卵の余韻がすっと軽くなる。三つ葉の香り、青ねぎの青さ、白胡麻の香ばしさも、主役を邪魔せずに整えている。

白ご飯と合わせると、卵の出汁がよく分かる。甘い卵焼きではなく、出汁巻きとしての落ち着きがある。そこへとうもろこしの粒が入ることで、昼の御膳に明るさが足されている。

小鉢のオクラのおひたしは、青い粘りで膳を涼しくする。わかめと三つ葉の澄まし汁は、出汁巻きと同じ方向を向きながら、より澄んだ香りを添える。胡瓜の浅漬けは、最後にぱりっとした青さを残す。

昨日は、鱸と夏野菜の冷やし煮浸し。冷たい昆布だしと白身魚の静かな一鉢だった。今日はそこから、卵ととうもろこしの明るい黄色へ。冷製の翌日に、こういう温かい卵料理が来ると、献立の流れに呼吸が生まれる。

出汁巻き卵は、気取らない料理に見えて、店の腕がよく出る。巻きのやわらかさ、出汁の含ませ方、とうもろこしの量。どれかひとつが強すぎても、昼の膳としては落ち着かない。

この一皿は、梅雨の空に灯る小さな明かりのようだった。卵の黄色、とうもろこしの甘み、出汁のやわらかさ。その三つが、湿った昼を少しだけ軽くしてくれる。

次回は「帆立と枝豆の塩だれ冷やし鉢御膳」。卵ととうもろこしの温かい明るさから、帆立と枝豆の白と緑へ。今度は冷たい鉢の中で、貝の甘みと豆の青さがどう響くのか楽しみにしたい。

田嶋達郎

呪文

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