こぐまと ふしぎな香り
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森の奥に、いつもにこにこしている小さなお地蔵さまがいました。
雨の日も、風の日も、お地蔵さまはにこにこしています。
この森では、木の実や果物を見つけた日は、その中から一つだけ、お地蔵さまにお供えします。
こぐまも、赤い木の実を一つ置きました。
「今日も、ありがとう」
すると、不思議なことが起こります。
ふわり。
お供えをした動物の、その日の気持ちが香りになって、森の中へ広がるのです。
その香りは、自分にも、森の仲間たちにも分かりました。
うれしい日は、甘い果物のような香り。
ゆったりした日は、雨上がりの草のような香り。
お日さまみたいに、あたたかい香りの日もありました。
でも、ときどき、鼻の奥がつんとする日もあります。
ある日は、たぬきからそんな香りがしました。
たぬきは、いつもより少し元気がありません。
こぐまは鼻をくんくんさせると、たぬきから少しだけ離れました。
「今日は、少し離れようかな……」
* * *
ある朝、こぐまは大きな赤い木の実を見つけました。
「わあ! こんなに大きいの、ぼくだけかも!」
こぐまは、とてもうれしくなりました。
ところが、向こうからうさぎがやってきました。
うさぎのかごには、こぐまの木の実よりも大きな実が、たくさん入っています。
「見て。こんなにとれたよ!」
こぐまは、自分の木の実を見ました。
胸のあたりに、もやもやしたものが広がります。
そこへ、りすが走ってきました。
「こぐま、いっしょに遊ぼう!」
でも、こぐまはぷいっと横を向きました。
「今は、いや」
りすは、少しだけ目を丸くしました。
* * *
夕方。
こぐまは、いつものように木の実を一つ、お地蔵さまの前に置きました。
「今日も、ありがとう」
そのときです。
ふわり。
鼻の奥が、つんとしました。
「……あれ?」
こぐまは右を見ました。左も見ました。
「だれの香りだろう」
くん、くん。
もう一度、自分の胸のあたりをかいでみます。
「……これ、ぼくの?」
近くにいた動物たちは、いつもより少しだけ、こぐまから離れました。
こぐまは、はっとしました。
* * *
次の日、こぐまは花を体につけてみました。
ふわり。
……つん。
その次の日は、いちばん甘そうな果物を選んで、お地蔵さまにお供えしてみました。
ふわり。
……やっぱり、つん。
こぐまは首をかしげました。
「果物を変えても、だめなんだ」
お地蔵さまは、何も言いません。
ただ、いつものようににこにこしていました。
* * *
その帰り道、りすが木の実をいっぱい抱えて歩いていました。
そのとき、一つの木の実が手から落ちました。
ころん。
ころころ、ころころ。
木の実は、道いっぱいに転がってしまいました。
こぐまは足を止めました。
そのまま帰ることもできました。
でも、こぐまは一つ拾いました。
もう一つ。
また一つ。
りすも、だまっていっしょに拾いました。
「昨日は……」
こぐまは、そこまで言って口を閉じました。
りすは木の実を受け取ると、
「ありがとう」
と笑いました。
こぐまも、ほんの少し笑いました。
* * *
次の朝。
こぐまは木の実を一つ、お地蔵さまに置きました。
「今日も、ありがとう」
ふわり。
まだ少し、つんとする香りがしました。
でも、その中に、お日さまに温められた赤い木の実のような、やわらかな香りが少しだけ混ざっています。
りすがやってきて、こぐまのとなりに座りました。
少しして、うさぎもやってきました。
小鳥も枝から下りてきました。
こぐまは鼻をくんくん。
「昨日とは、ちょっとちがう」
お地蔵さまは、今日も何も言いません。
ただ、にこにこしています。
森を風が通りぬけます。
甘い香りも、草の香りも、少しつんとする香りも。
いろいろな香りを混ぜながら、森の中を、
ふわり、ふわり。
雨の日も、風の日も、お地蔵さまはにこにこしています。
この森では、木の実や果物を見つけた日は、その中から一つだけ、お地蔵さまにお供えします。
こぐまも、赤い木の実を一つ置きました。
「今日も、ありがとう」
すると、不思議なことが起こります。
ふわり。
お供えをした動物の、その日の気持ちが香りになって、森の中へ広がるのです。
その香りは、自分にも、森の仲間たちにも分かりました。
うれしい日は、甘い果物のような香り。
ゆったりした日は、雨上がりの草のような香り。
お日さまみたいに、あたたかい香りの日もありました。
でも、ときどき、鼻の奥がつんとする日もあります。
ある日は、たぬきからそんな香りがしました。
たぬきは、いつもより少し元気がありません。
こぐまは鼻をくんくんさせると、たぬきから少しだけ離れました。
「今日は、少し離れようかな……」
* * *
ある朝、こぐまは大きな赤い木の実を見つけました。
「わあ! こんなに大きいの、ぼくだけかも!」
こぐまは、とてもうれしくなりました。
ところが、向こうからうさぎがやってきました。
うさぎのかごには、こぐまの木の実よりも大きな実が、たくさん入っています。
「見て。こんなにとれたよ!」
こぐまは、自分の木の実を見ました。
胸のあたりに、もやもやしたものが広がります。
そこへ、りすが走ってきました。
「こぐま、いっしょに遊ぼう!」
でも、こぐまはぷいっと横を向きました。
「今は、いや」
りすは、少しだけ目を丸くしました。
* * *
夕方。
こぐまは、いつものように木の実を一つ、お地蔵さまの前に置きました。
「今日も、ありがとう」
そのときです。
ふわり。
鼻の奥が、つんとしました。
「……あれ?」
こぐまは右を見ました。左も見ました。
「だれの香りだろう」
くん、くん。
もう一度、自分の胸のあたりをかいでみます。
「……これ、ぼくの?」
近くにいた動物たちは、いつもより少しだけ、こぐまから離れました。
こぐまは、はっとしました。
* * *
次の日、こぐまは花を体につけてみました。
ふわり。
……つん。
その次の日は、いちばん甘そうな果物を選んで、お地蔵さまにお供えしてみました。
ふわり。
……やっぱり、つん。
こぐまは首をかしげました。
「果物を変えても、だめなんだ」
お地蔵さまは、何も言いません。
ただ、いつものようににこにこしていました。
* * *
その帰り道、りすが木の実をいっぱい抱えて歩いていました。
そのとき、一つの木の実が手から落ちました。
ころん。
ころころ、ころころ。
木の実は、道いっぱいに転がってしまいました。
こぐまは足を止めました。
そのまま帰ることもできました。
でも、こぐまは一つ拾いました。
もう一つ。
また一つ。
りすも、だまっていっしょに拾いました。
「昨日は……」
こぐまは、そこまで言って口を閉じました。
りすは木の実を受け取ると、
「ありがとう」
と笑いました。
こぐまも、ほんの少し笑いました。
* * *
次の朝。
こぐまは木の実を一つ、お地蔵さまに置きました。
「今日も、ありがとう」
ふわり。
まだ少し、つんとする香りがしました。
でも、その中に、お日さまに温められた赤い木の実のような、やわらかな香りが少しだけ混ざっています。
りすがやってきて、こぐまのとなりに座りました。
少しして、うさぎもやってきました。
小鳥も枝から下りてきました。
こぐまは鼻をくんくん。
「昨日とは、ちょっとちがう」
お地蔵さまは、今日も何も言いません。
ただ、にこにこしています。
森を風が通りぬけます。
甘い香りも、草の香りも、少しつんとする香りも。
いろいろな香りを混ぜながら、森の中を、
ふわり、ふわり。
呪文
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