マンハッタン
使用したAI
Dalle
雨上がりだった。
昼間まで降っていた雨が、夜にはすっかり止んでいる。
けれど空気にはまだ水気が残っていて、アスファルトは街灯を鈍く反射していた。
凪咲はコートの襟を少しだけ引き寄せながら、バーへの道を歩く。
——最近、澪さんのことを考える時間が増えた。
それは恋愛感情とか、そういう単純な言葉では説明しづらい。
尊敬。憧れ。理解したい、という気持ち。
そして少しだけ、**“追いつきたい”**という感情。
前なら、あの人は雲の上の人だと思って終わっていた。
——でも、あの夜以来、違う。
別の店で偶然会い、二人だけのカウンターで、凪咲はあの人を「アンバサダー」と呼んだ。
そして、あの人は「そうかもしれないわね」と、静かに受け取った。
——あの人も迷う。
傷つく。
誰かの選択に悩み、自分の言葉が正しかったのか考える。
それを知ってしまったから。
知ってしまった以上、彼女は、もう前の自分には戻れない。
============================================
(チリンチリーン)
「いらっしゃいませ——あ、凪咲さん!」
遥ちゃんがぱっと笑顔を向ける。
「あれ、香澄は?」
「香澄先輩、今日は買い出しです。
明日のディナー予約多めなので、追加で仕入れに行くそうです」
「ふぅん。じゃあ、戻ってくるまで遥ちゃんに付き合ってもらおうかな」
「お任せください!」
カウンターに腰掛けながら、店内を見回す。
平日の遅めの時間。
客入りは落ち着いているが、ゼロではない。
カウンターの端と、奥のテーブル席に、それぞれ静かに酒を楽しむ常連の姿があった。
——やっぱり、良い店だ。
ふと、そう思う。
単にオシャレとか、居心地が良いとか、そういうことじゃない。
ここには**“人が戻って来たくなる空気”**がある。
「今日は何にします?」
「んー……遥ちゃんに任せる」
「おっ、来ましたね、丸投げ注文!」
遥ちゃんは楽しそうにバックバーへ向かった。
その後ろ姿を見ながら、私は何となく考えていた。
——澪さんって、結局、なんなんだろう。
経営者。
オーナー。
カリスマ。
もちろん全部そうなんだけど、それだけじゃない。
あの人は、人を**“動かしている”**というより、
人が**“自分から動きたくなる”**空気を作っている。
有紗先輩もそうだった。
前は「頼まれたら助ける人」だったのに、
今は自分から踏み込んで、失敗して、悩んで、それでも前に進んでいる。
あれはきっと、澪さんが無理やり変えたわけじゃない。
——**“変わりたい”と思わせた**んだ。
============================================
「お待たせしました!」
置かれたのは、深い琥珀色のカクテル。
「マンハッタンです!」
「おお……渋いの来たねぇ」
「凪咲さん、最近ちょっと、大人っぽい顔して考え事してるので!」
「何それ」
「マンハッタンって、カクテルの女王って言われてるの知ってます?」
「うん」
「流石は凪咲さん!
じゃあ、カクテル言葉は―」
遥ちゃんは、グラスを少し前に押し出した。
「『**切ない恋心**』」
「……」
凪咲は、思わず遥ちゃんの顔を見た。
遥ちゃんは、にっと笑う。
「何かありますよね、凪咲さん。今日」
「……読まれてるなあ」
「副店長ですから」
笑いながら、グラスを持ち上げる。
ライウイスキーの骨格。
ベルモットの甘さ。
ビターズの苦味。
強いのに、綺麗にまとまっている。
「……美味しい」
「でしょ?」
遥ちゃんは満足そうに頷いた。
============================================
少し迷ったあと、ぽつりと零す。
「……最近、澪さんのこと考えること、多くて」
「おぉ?」
遥ちゃんの目が、ちょっとだけ輝く。
「あ、違う違う。そういう意味じゃなくて」
「えー? ほんとですかー?」
「ほんとほんと」
でも、と凪咲は続けた。
「なんていうか……
あの人、凄すぎるじゃん」
「はい、それは間違いないです」
遥ちゃんは迷いなく言い切った。
「でもね、最近ちょっと思うんです」
少しだけ、声を落とす。
「澪さんって、**“一人で全部背負い過ぎる”**んですよ」
「……」
私は、思わず黙った。
遥ちゃんがそこまで見ているのが、少し意外だった。
——いや。
副店長になって、香澄から店を任される夜が増えて、
たぶん遥ちゃんも、**澪さんを別の角度から見るようになっている**んだ。
「お店のことも、人のことも、未来のことも。
全部ちゃんと考えてるんですよね。
だから皆、安心してついていける」
「うん……」
「でも、澪さんって……**“自分が頼る側”になるの**、下手じゃないですか?」
その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「あー……それ、めちゃくちゃ分かる」
「ですよね?」
遥ちゃんは、また少しだけ声を落とす。
「だから私、最近ちょっと思うんです。
澪さんにも、“この人になら少し任せてもいいかな”って思える人が、必要なんじゃないかなって」
凪咲は、グラスを置いた。
——それは、私がつい先日、別の店で感じたのと、まったく同じことだった。
「遥ちゃん」
「はい?」
「あなた、ちゃんと見てるね」
「副店長ですから」
二度目の「副店長ですから」だった。
でも、二度目の方が、少しだけ誇らしげだった。
============================================
——その時。
(チリンチリーン)
店の扉が開いた。
「あら。賑やかね」
「あ、澪さん!」
噂をすれば、ではなかった。
そういえば、遥ちゃんが**「もうすぐ戻ると思いますよ」**と言ったのは、香澄のことだったはずだ。
でも、ドアを開けて入ってきたのは、澪さんだった。
——あ。
そういえば、月初の経理の確認で、月に一度は澪さんが店に来る日がある。
たまたま、今日がその日だったのか。
それとも、何か別の用事で……?
「あれ? 澪さん、今日って何かありましたっけ?」
「ちょうど近くで打ち合わせがあってね。終わりが早かったから、寄ってみたの」
「あ、なるほど!」
「邪魔だったかしら?」
「とんでもないです!」
凪咲は、慌てて答えた。
そして、思った。
——以前なら、この距離感だけで緊張していたのに。
今は、少し違う。
もちろん、まだ圧倒される。
でも、**“怖い”とは思わなくなっていた**。
「凪咲さんの隣、いい?」
「もちろんです」
澪さんは、コートを丁寧に畳んで椅子の背にかけてから、自然な仕草で隣に腰を下ろした。
============================================
澪さんはマンハッタンを見て、ふっと笑った。
「良いもの選んでもらったわね」
「遥ちゃん作です」
「なるほど。じゃあ納得」
遥ちゃんは、得意げに胸を張った。
そして、すぐに澪さんに向き直る。
「澪さん、今日は何になさいますか?」
「うーん……同じものを。気になっちゃったから」
「かしこまりました」
遥ちゃんは、ミキシンググラスを取り出して動き始める。
澪さんは、しばらく静かに店内を見回してから、ぽつりと言った。
「ところで、入ってきた時——
何の話してたの?」
反射的に遥ちゃんと、顔を見合わせた。
——聞かれてた?
「……どこから?」
「『あなた、ちゃんと見てるね』のところから」
「……それ、わりと最後ですよ」
「最後だけでも、内容は大体察しがついたわよ」
澪さんは、少しだけ面白がるような笑みを浮かべた。
「**“一人で全部背負い過ぎる”**って、私のことでしょう?」
遥ちゃんが、ぴっと姿勢を正した。
「いえあの、それは決して悪い意味では——」
「分かってる」
澪さんは、軽く手を振った。
「でも、ちょっと驚いたわ。
二人とも、よく見てるのね」
============================================
私は、グラスを軽く揺らした。
少しだけ、迷う。
でも、もし今日言わなかったら、また機会を失う気がした。
「澪さん」
「ん?」
「澪さんって、なんでそんなに……人を変えられるんだろう、って」
澪さんは、目を丸くした。
それから、少し困ったように笑う。
「変えてるつもりは、ないんだけどね」
「でも、皆変わってるじゃないですか」
——有紗先輩。
遥ちゃん。
香澄も、たぶん。
——そして、私も。
澪さんは、しばらく黙っていた。
その沈黙は、**言葉を探している沈黙**だった。
遥ちゃんがマンハッタンを差し出して、それを受け取ってから、澪さんはようやく口を開いた。
「……たぶんね」
「はい」
「私は、“**期待してる**”のかもしれない」
私は、瞬きをした。
「相手が、自分で思ってるより、出来る人なんじゃないかって。
それを、勝手に信じてる」
「……」
「だから、“こうしなさい”じゃなくて、
“**あなたなら、どうしたい?**”って聞きたくなるの」
その言葉を聞いた瞬間、
自分の中で、何かが繋がった。
——ああ。
この人は。
人を**管理してる**んじゃない。
人の可能性を、**信じ続けてる**んだ。
だから皆、前を向ける。
だから皆、**「もっと出来るかもしれない」**って、思ってしまう。
グラスを持ち上げて、ゆっくり飲んだ。
マンハッタンの強さが、今は、ちょうどよく身体に沁みた。
============================================
澪さんは、そこで、少しだけ視線を逸らした。
「……でも、最近は」
「?」
「凪咲さんにも、**ちょっと期待し始めてる**のよね」
「……え?」
思考が、止まった。
遥ちゃんが、目を丸くして口を開きかける。
「……いえ、何でも」
賢明に、遥ちゃんは何も言わなかった。
「あ、いえ」
澪さんは、グラスを軽く揺らしながら言葉を続ける。
「変な意味じゃないのよ。
……でも、誤解されそうな言い方だったわね」
それは、いつもの澪さんが言いそうにない、自分への小さな突っ込みだった。
——あ。
ふと、気づく。
この人、ちょっと**動揺してる**。
普段、こんなに言葉を慎重に選ぶ人が、今、少しだけ、選び直している。
「……あの夜、別のお店で」
澪さんは、グラスを見つめながら、続けた。
「凪咲さんに、『アンバサダーみたい』って言われて、ずっと考えてたの」
息を呑んだ。
「私はずっと、人と人の間に立つことを、自分の役割だと思ってきた。
でも、あなたにそう言われて——
もしかしたら、私も、**誰かと並んで歩く側**に、回ってもいいのかもしれない、って」
「……」
「だから、ちょっと、期待してる。
あなたが、いつかその隣に立ってくれたら、面白いんじゃないかって」
しばらく、何も言えなかった。
カウンターの内側で、遥ちゃんが、グラスを磨きながら、聞いていないふりをしている。
でも、その手の動きが、いつもより少しだけ遅かった。
============================================
「……澪さん、それ」
凪咲は、ようやく口を開いた。
「結構、ずるくないですか」
「ずるい?」
「だって——
そう言われたら、私、頑張らないわけにいかないじゃないですか」
澪さんは、ふっと笑った。
「ごめんなさい」
「謝らないでくださいよ」
「……ふふ」
澪さんが、珍しく、声を上げて笑った。
その笑顔を見て、ふと気付く。
——ああ。
この人、ちゃんと**“人と並んで歩きたい”**とも、思ってるんだ。
ただ、それが出来る相手が、少なすぎただけで。
============================================
「……期待、ですか」
凪咲は、もう一度、グラスを持ち上げる。
「応えられるかは、分かりませんよ?」
「ええ」
澪さんも、静かに頷いた。
「でも、あなたなら、**面白いところまで行ける**気はしてる」
その言葉に、不思議とプレッシャーより先に、嬉しさが来た。
——ああ。
認められたいって、こういうことか。
凪咲は、少しだけ笑う。
「じゃあ、頑張らないとですね」
「無理はしないでね?」
「それ、澪さんが言います?」
「……耳が痛いわね」
============================================
(チリンチリーン)
「ただいま戻りました」
両手に紙袋を抱えた香澄が、入ってきた。
「あら、香澄さん。お疲れさま」
「澪さん、来てらしたんですね。お疲れさまです」
香澄は澪さんに軽く一礼してから、紙袋をカウンターの裏に運んでいく。
「何の話してたの、三人で。楽しそうね」
手をひらひらさせる。
「ほんと、普通の世間話よ」
「凪咲、ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「……あなたが『ほんと』を二回言うときは、だいたい嘘なのよね」
凪咲は、思わず吹き出した。
「鋭すぎるって、香澄」
「長い付き合いだから」
香澄は、買ってきた食材をひとつずつ確認しながら、淡々と言った。
——その、いつもと変わらない横顔を見ながら、少しだけ思う。
ここのところ、たくさんの人が変わった。
有紗先輩は変わる側に回った。
遥ちゃんは変わらないことを自分の意思で選んだ。
私は、自分が「置いていかれるのが怖い」と認めた。
澪さんは、人と並んで歩く側に、一歩出ようとしている。
——じゃあ。
ちらりと、香澄を見る。
香澄は、何も変わっていないように見える。
いつもと同じ手つきで、いつもと同じ顔で、店に立っている。
でも——
なんだろう。
最近、香澄の中に、**何か小さな揺らぎ**があるような気がする。
それが何なのか、私にはまだ分からない。
でも、いつか、香澄が話してくれる日が来るなら、その時、ちゃんと聞ける自分でありたい。
そう、思った。
============================================
「香澄さん、何飲む?」
澪が声をかけると、香澄は買い出しの紙袋を片付けながら答えた。
「ありがとうございます。今日は仕事中ですので、後ほど」
「真面目ねえ」
「真面目にやらないと、副店長に怒られますので」
「えっ、私、香澄先輩に怒ったことないですよ!?」
「無言の圧をかけてくる」
「えええ、それは無理な相談ですよぅ!」
三人の笑い声が、静かなバーに溶けていく。
——でも、その笑い声の中に、香澄の声が**一拍だけ遅れて**混ざった。
それが何を意味するのか、私は、まだ分からなかった。
============================================
カウンターの上では、
マンハッタンの琥珀色が、ゆっくり揺れていた。
まるで——
少しずつ距離が変わっていく心みたいに。
外の夜は、まだ雨上がりの匂いを残している。
凪咲は、グラスを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。
ライウイスキーの骨格。
ベルモットの甘さ。
ビターズの苦味。
——強いのに、綺麗にまとまっている。
このまとまりがずっと続けばいいのに…
凪咲はそんな事を考えながら、もう一口マンハッタンを飲んだ。
---
最近、会社で使っていることもあってclaude codeを使う機会が増えています。
そこで試しに今まで書いたお話を、claudeに読み込ませると、好きな感じにアップデートしてくれたんですね。
ということで本作は、claudeで書いたものを初投稿させてもらいます。
前作で凪咲さんと話した澪さん。
その「期待」を、とても鮮やかに描いてもらえてclaude流石だなあと思いました。
ちなみにその前作はこちら。
https://www.chichi-pui.com/posts/47d48011-8c18-4931-8a2c-11e9b82447d0/
ただ、最初から書いてもらったわけではなく。
まずラフに自分で書く→chat GPTに書いてもらう→claudeに書いてもらう→最終手直し
という手順を踏んでいます。
…ええ、ここはイラストの投稿サイトですよね(;・∀・)
ちなみにマンハッタンですね。
とても有名なカクテルで、名前を聞いたことある方も多いのでは。
ライウイスキー、ベルモットにアンゴスチュラビターズを垂らし、ステアして作る実はシンプルなカクテルです。
一応の比率は決められてるものの、それも自分好みでok。材料を変えた際のバリエーションも多いカクテルですね。
バーならほぼどこでもあるかと思いますので、是非お試しを!
昼間まで降っていた雨が、夜にはすっかり止んでいる。
けれど空気にはまだ水気が残っていて、アスファルトは街灯を鈍く反射していた。
凪咲はコートの襟を少しだけ引き寄せながら、バーへの道を歩く。
——最近、澪さんのことを考える時間が増えた。
それは恋愛感情とか、そういう単純な言葉では説明しづらい。
尊敬。憧れ。理解したい、という気持ち。
そして少しだけ、**“追いつきたい”**という感情。
前なら、あの人は雲の上の人だと思って終わっていた。
——でも、あの夜以来、違う。
別の店で偶然会い、二人だけのカウンターで、凪咲はあの人を「アンバサダー」と呼んだ。
そして、あの人は「そうかもしれないわね」と、静かに受け取った。
——あの人も迷う。
傷つく。
誰かの選択に悩み、自分の言葉が正しかったのか考える。
それを知ってしまったから。
知ってしまった以上、彼女は、もう前の自分には戻れない。
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(チリンチリーン)
「いらっしゃいませ——あ、凪咲さん!」
遥ちゃんがぱっと笑顔を向ける。
「あれ、香澄は?」
「香澄先輩、今日は買い出しです。
明日のディナー予約多めなので、追加で仕入れに行くそうです」
「ふぅん。じゃあ、戻ってくるまで遥ちゃんに付き合ってもらおうかな」
「お任せください!」
カウンターに腰掛けながら、店内を見回す。
平日の遅めの時間。
客入りは落ち着いているが、ゼロではない。
カウンターの端と、奥のテーブル席に、それぞれ静かに酒を楽しむ常連の姿があった。
——やっぱり、良い店だ。
ふと、そう思う。
単にオシャレとか、居心地が良いとか、そういうことじゃない。
ここには**“人が戻って来たくなる空気”**がある。
「今日は何にします?」
「んー……遥ちゃんに任せる」
「おっ、来ましたね、丸投げ注文!」
遥ちゃんは楽しそうにバックバーへ向かった。
その後ろ姿を見ながら、私は何となく考えていた。
——澪さんって、結局、なんなんだろう。
経営者。
オーナー。
カリスマ。
もちろん全部そうなんだけど、それだけじゃない。
あの人は、人を**“動かしている”**というより、
人が**“自分から動きたくなる”**空気を作っている。
有紗先輩もそうだった。
前は「頼まれたら助ける人」だったのに、
今は自分から踏み込んで、失敗して、悩んで、それでも前に進んでいる。
あれはきっと、澪さんが無理やり変えたわけじゃない。
——**“変わりたい”と思わせた**んだ。
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「お待たせしました!」
置かれたのは、深い琥珀色のカクテル。
「マンハッタンです!」
「おお……渋いの来たねぇ」
「凪咲さん、最近ちょっと、大人っぽい顔して考え事してるので!」
「何それ」
「マンハッタンって、カクテルの女王って言われてるの知ってます?」
「うん」
「流石は凪咲さん!
じゃあ、カクテル言葉は―」
遥ちゃんは、グラスを少し前に押し出した。
「『**切ない恋心**』」
「……」
凪咲は、思わず遥ちゃんの顔を見た。
遥ちゃんは、にっと笑う。
「何かありますよね、凪咲さん。今日」
「……読まれてるなあ」
「副店長ですから」
笑いながら、グラスを持ち上げる。
ライウイスキーの骨格。
ベルモットの甘さ。
ビターズの苦味。
強いのに、綺麗にまとまっている。
「……美味しい」
「でしょ?」
遥ちゃんは満足そうに頷いた。
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少し迷ったあと、ぽつりと零す。
「……最近、澪さんのこと考えること、多くて」
「おぉ?」
遥ちゃんの目が、ちょっとだけ輝く。
「あ、違う違う。そういう意味じゃなくて」
「えー? ほんとですかー?」
「ほんとほんと」
でも、と凪咲は続けた。
「なんていうか……
あの人、凄すぎるじゃん」
「はい、それは間違いないです」
遥ちゃんは迷いなく言い切った。
「でもね、最近ちょっと思うんです」
少しだけ、声を落とす。
「澪さんって、**“一人で全部背負い過ぎる”**んですよ」
「……」
私は、思わず黙った。
遥ちゃんがそこまで見ているのが、少し意外だった。
——いや。
副店長になって、香澄から店を任される夜が増えて、
たぶん遥ちゃんも、**澪さんを別の角度から見るようになっている**んだ。
「お店のことも、人のことも、未来のことも。
全部ちゃんと考えてるんですよね。
だから皆、安心してついていける」
「うん……」
「でも、澪さんって……**“自分が頼る側”になるの**、下手じゃないですか?」
その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「あー……それ、めちゃくちゃ分かる」
「ですよね?」
遥ちゃんは、また少しだけ声を落とす。
「だから私、最近ちょっと思うんです。
澪さんにも、“この人になら少し任せてもいいかな”って思える人が、必要なんじゃないかなって」
凪咲は、グラスを置いた。
——それは、私がつい先日、別の店で感じたのと、まったく同じことだった。
「遥ちゃん」
「はい?」
「あなた、ちゃんと見てるね」
「副店長ですから」
二度目の「副店長ですから」だった。
でも、二度目の方が、少しだけ誇らしげだった。
============================================
——その時。
(チリンチリーン)
店の扉が開いた。
「あら。賑やかね」
「あ、澪さん!」
噂をすれば、ではなかった。
そういえば、遥ちゃんが**「もうすぐ戻ると思いますよ」**と言ったのは、香澄のことだったはずだ。
でも、ドアを開けて入ってきたのは、澪さんだった。
——あ。
そういえば、月初の経理の確認で、月に一度は澪さんが店に来る日がある。
たまたま、今日がその日だったのか。
それとも、何か別の用事で……?
「あれ? 澪さん、今日って何かありましたっけ?」
「ちょうど近くで打ち合わせがあってね。終わりが早かったから、寄ってみたの」
「あ、なるほど!」
「邪魔だったかしら?」
「とんでもないです!」
凪咲は、慌てて答えた。
そして、思った。
——以前なら、この距離感だけで緊張していたのに。
今は、少し違う。
もちろん、まだ圧倒される。
でも、**“怖い”とは思わなくなっていた**。
「凪咲さんの隣、いい?」
「もちろんです」
澪さんは、コートを丁寧に畳んで椅子の背にかけてから、自然な仕草で隣に腰を下ろした。
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澪さんはマンハッタンを見て、ふっと笑った。
「良いもの選んでもらったわね」
「遥ちゃん作です」
「なるほど。じゃあ納得」
遥ちゃんは、得意げに胸を張った。
そして、すぐに澪さんに向き直る。
「澪さん、今日は何になさいますか?」
「うーん……同じものを。気になっちゃったから」
「かしこまりました」
遥ちゃんは、ミキシンググラスを取り出して動き始める。
澪さんは、しばらく静かに店内を見回してから、ぽつりと言った。
「ところで、入ってきた時——
何の話してたの?」
反射的に遥ちゃんと、顔を見合わせた。
——聞かれてた?
「……どこから?」
「『あなた、ちゃんと見てるね』のところから」
「……それ、わりと最後ですよ」
「最後だけでも、内容は大体察しがついたわよ」
澪さんは、少しだけ面白がるような笑みを浮かべた。
「**“一人で全部背負い過ぎる”**って、私のことでしょう?」
遥ちゃんが、ぴっと姿勢を正した。
「いえあの、それは決して悪い意味では——」
「分かってる」
澪さんは、軽く手を振った。
「でも、ちょっと驚いたわ。
二人とも、よく見てるのね」
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私は、グラスを軽く揺らした。
少しだけ、迷う。
でも、もし今日言わなかったら、また機会を失う気がした。
「澪さん」
「ん?」
「澪さんって、なんでそんなに……人を変えられるんだろう、って」
澪さんは、目を丸くした。
それから、少し困ったように笑う。
「変えてるつもりは、ないんだけどね」
「でも、皆変わってるじゃないですか」
——有紗先輩。
遥ちゃん。
香澄も、たぶん。
——そして、私も。
澪さんは、しばらく黙っていた。
その沈黙は、**言葉を探している沈黙**だった。
遥ちゃんがマンハッタンを差し出して、それを受け取ってから、澪さんはようやく口を開いた。
「……たぶんね」
「はい」
「私は、“**期待してる**”のかもしれない」
私は、瞬きをした。
「相手が、自分で思ってるより、出来る人なんじゃないかって。
それを、勝手に信じてる」
「……」
「だから、“こうしなさい”じゃなくて、
“**あなたなら、どうしたい?**”って聞きたくなるの」
その言葉を聞いた瞬間、
自分の中で、何かが繋がった。
——ああ。
この人は。
人を**管理してる**んじゃない。
人の可能性を、**信じ続けてる**んだ。
だから皆、前を向ける。
だから皆、**「もっと出来るかもしれない」**って、思ってしまう。
グラスを持ち上げて、ゆっくり飲んだ。
マンハッタンの強さが、今は、ちょうどよく身体に沁みた。
============================================
澪さんは、そこで、少しだけ視線を逸らした。
「……でも、最近は」
「?」
「凪咲さんにも、**ちょっと期待し始めてる**のよね」
「……え?」
思考が、止まった。
遥ちゃんが、目を丸くして口を開きかける。
「……いえ、何でも」
賢明に、遥ちゃんは何も言わなかった。
「あ、いえ」
澪さんは、グラスを軽く揺らしながら言葉を続ける。
「変な意味じゃないのよ。
……でも、誤解されそうな言い方だったわね」
それは、いつもの澪さんが言いそうにない、自分への小さな突っ込みだった。
——あ。
ふと、気づく。
この人、ちょっと**動揺してる**。
普段、こんなに言葉を慎重に選ぶ人が、今、少しだけ、選び直している。
「……あの夜、別のお店で」
澪さんは、グラスを見つめながら、続けた。
「凪咲さんに、『アンバサダーみたい』って言われて、ずっと考えてたの」
息を呑んだ。
「私はずっと、人と人の間に立つことを、自分の役割だと思ってきた。
でも、あなたにそう言われて——
もしかしたら、私も、**誰かと並んで歩く側**に、回ってもいいのかもしれない、って」
「……」
「だから、ちょっと、期待してる。
あなたが、いつかその隣に立ってくれたら、面白いんじゃないかって」
しばらく、何も言えなかった。
カウンターの内側で、遥ちゃんが、グラスを磨きながら、聞いていないふりをしている。
でも、その手の動きが、いつもより少しだけ遅かった。
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「……澪さん、それ」
凪咲は、ようやく口を開いた。
「結構、ずるくないですか」
「ずるい?」
「だって——
そう言われたら、私、頑張らないわけにいかないじゃないですか」
澪さんは、ふっと笑った。
「ごめんなさい」
「謝らないでくださいよ」
「……ふふ」
澪さんが、珍しく、声を上げて笑った。
その笑顔を見て、ふと気付く。
——ああ。
この人、ちゃんと**“人と並んで歩きたい”**とも、思ってるんだ。
ただ、それが出来る相手が、少なすぎただけで。
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「……期待、ですか」
凪咲は、もう一度、グラスを持ち上げる。
「応えられるかは、分かりませんよ?」
「ええ」
澪さんも、静かに頷いた。
「でも、あなたなら、**面白いところまで行ける**気はしてる」
その言葉に、不思議とプレッシャーより先に、嬉しさが来た。
——ああ。
認められたいって、こういうことか。
凪咲は、少しだけ笑う。
「じゃあ、頑張らないとですね」
「無理はしないでね?」
「それ、澪さんが言います?」
「……耳が痛いわね」
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(チリンチリーン)
「ただいま戻りました」
両手に紙袋を抱えた香澄が、入ってきた。
「あら、香澄さん。お疲れさま」
「澪さん、来てらしたんですね。お疲れさまです」
香澄は澪さんに軽く一礼してから、紙袋をカウンターの裏に運んでいく。
「何の話してたの、三人で。楽しそうね」
手をひらひらさせる。
「ほんと、普通の世間話よ」
「凪咲、ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「……あなたが『ほんと』を二回言うときは、だいたい嘘なのよね」
凪咲は、思わず吹き出した。
「鋭すぎるって、香澄」
「長い付き合いだから」
香澄は、買ってきた食材をひとつずつ確認しながら、淡々と言った。
——その、いつもと変わらない横顔を見ながら、少しだけ思う。
ここのところ、たくさんの人が変わった。
有紗先輩は変わる側に回った。
遥ちゃんは変わらないことを自分の意思で選んだ。
私は、自分が「置いていかれるのが怖い」と認めた。
澪さんは、人と並んで歩く側に、一歩出ようとしている。
——じゃあ。
ちらりと、香澄を見る。
香澄は、何も変わっていないように見える。
いつもと同じ手つきで、いつもと同じ顔で、店に立っている。
でも——
なんだろう。
最近、香澄の中に、**何か小さな揺らぎ**があるような気がする。
それが何なのか、私にはまだ分からない。
でも、いつか、香澄が話してくれる日が来るなら、その時、ちゃんと聞ける自分でありたい。
そう、思った。
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「香澄さん、何飲む?」
澪が声をかけると、香澄は買い出しの紙袋を片付けながら答えた。
「ありがとうございます。今日は仕事中ですので、後ほど」
「真面目ねえ」
「真面目にやらないと、副店長に怒られますので」
「えっ、私、香澄先輩に怒ったことないですよ!?」
「無言の圧をかけてくる」
「えええ、それは無理な相談ですよぅ!」
三人の笑い声が、静かなバーに溶けていく。
——でも、その笑い声の中に、香澄の声が**一拍だけ遅れて**混ざった。
それが何を意味するのか、私は、まだ分からなかった。
============================================
カウンターの上では、
マンハッタンの琥珀色が、ゆっくり揺れていた。
まるで——
少しずつ距離が変わっていく心みたいに。
外の夜は、まだ雨上がりの匂いを残している。
凪咲は、グラスを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。
ライウイスキーの骨格。
ベルモットの甘さ。
ビターズの苦味。
——強いのに、綺麗にまとまっている。
このまとまりがずっと続けばいいのに…
凪咲はそんな事を考えながら、もう一口マンハッタンを飲んだ。
---
最近、会社で使っていることもあってclaude codeを使う機会が増えています。
そこで試しに今まで書いたお話を、claudeに読み込ませると、好きな感じにアップデートしてくれたんですね。
ということで本作は、claudeで書いたものを初投稿させてもらいます。
前作で凪咲さんと話した澪さん。
その「期待」を、とても鮮やかに描いてもらえてclaude流石だなあと思いました。
ちなみにその前作はこちら。
https://www.chichi-pui.com/posts/47d48011-8c18-4931-8a2c-11e9b82447d0/
ただ、最初から書いてもらったわけではなく。
まずラフに自分で書く→chat GPTに書いてもらう→claudeに書いてもらう→最終手直し
という手順を踏んでいます。
…ええ、ここはイラストの投稿サイトですよね(;・∀・)
ちなみにマンハッタンですね。
とても有名なカクテルで、名前を聞いたことある方も多いのでは。
ライウイスキー、ベルモットにアンゴスチュラビターズを垂らし、ステアして作る実はシンプルなカクテルです。
一応の比率は決められてるものの、それも自分好みでok。材料を変えた際のバリエーションも多いカクテルですね。
バーならほぼどこでもあるかと思いますので、是非お試しを!
呪文
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イラストの呪文(プロンプト)
jacket partially removed, heart in eye, burnt clothes, holding fishing rod, kanji, doujin cover, pentagram, tape gag, adjusting headwear, red socks, friends, cloud print, coke-bottle glasses, oral invitation, competition school swimsuit, barbell piercing, gradient legwear, prisoner, blood on breasts, wind chime, carrying over shoulder, tape measure, flaming weapon
イラストの呪文(ネガティブプロンプト)
入力なし