前回
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ゼノが額を伝う汗を拭うと、彼女はぼぅとそれを目で追う。
案外人間もやろうと思えばやれるのだな、とゼノが息を吐く。
彼女は辺りを見渡しているが無理もない。
おそらく彼女のいた時代とは異なった技術体系の宇宙船の中にいるのだから。

彼女を抱き抱えて旧型の宇宙船から脱出した後、すぐにアレは崩壊して宇宙の藻屑に変わってしまった。
あと少しでも遅れていたならば…背筋が凍る。

「…ここは…」

どうやら問題なく意思疎通はできるらしい。
彼女が口を開き疑問を呈する。

「ここは俺の船だ」
「あなたの…」
「君はなぜ眠っていた?」
「…私は……」

まだ思考が回らないようだ。
無理もない、長い事コールドスリープ状態だったのだ。
コレばかりは現代の技術でもどうにもならない。
時が癒すのを待つしかない。

「…」

…彼女を抱き抱えて逃げている最中は特に気にする余裕はなかったが、歳はゼノと変わらないくらいのように見える。
ちょっと力入れれば折れてしまいそうな体躯に、美しい艶のブロンドの髪。
エキゾチックな雰囲気の褐色肌。
そして吸い込まれそうな青い瞳…。
彼女がキョトンとゼノを見上げる。

「PPI!」

唐突の簡易コミュケーション電子音にビクリと身体が跳ねる。
音の主はフィルターだ。
そうだったフィルターにホットミルクを頼んでいたのだった。

「ミルクいるか?身体を暖めた方がいいぞ」

少し不機嫌なフィルターから二杯のたっぷりとミルクの入ったマグを受け取ると、片方を彼女に差し出す。
彼女は少し不思議そうな顔しつつも受け取る。

「…ありがとう」

傾けて飲むと人工ミルクの甘ったるい香りが熱さと共に口に広がる。
彼女には熱すぎたようでフーフーと息を吹きかけていた。
やがて、少し傾けて口の中へ。

「すごく甘い…けれどもおいしくて安心する味…」

と彼女が真面目に評論するもので、ゼノは緊張の糸が切れたかのように笑う。
さっきまで生きるか死ぬかの瀬戸際だったことを忘れそうだ。

「そいつは良かった。俺はゼノ・ブライトロック、コイツはフィルターだ」
「PIPI」

彼女はゼノとフィルターを交互に見て、二人の名前を噛み締めるように呟く。
ミルクの水面に彼女の姿が映る。

「君の名前も知りたいな」

そう言われて彼女は少し考えて、二人を見る。

「私は、ルナ。ルナ・エヴェレット」

その声は凛としていた。

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次回
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