「シャーロットさん、以前に依頼したナイ神父捜索の件ですが、取り下げます。直ちに手を引いてください」
「どうされたんですか? ユーミルさん、ジョージさん、そんなに慌てて」
「ナイ神父の捜索を行っていた仲間が、ことごとく行方不明になった。三人とも、この種の任務には慣れているベテランで、並みの魔物くらい簡単に倒せるくらいの腕の持ち主だったが……、ナイ神父は我々が思っていた以上に危険な相手だったようだ」
「それは……、そうですか……、はい。では、直接の捜査はやめておきましょう。しかし、私としても気になることがあるので、別のアプローチで探ってみます。あ、いえ、ご心配なく。外には出ません。ここで、地図を見ながら新聞を読むだけです」
 ……
「お嬢様、新聞を買ってまいりました」
「ありがとう、ウルフ君、そこに置いといて」
「ずっとそうやって新聞読んでるけど、それも調査なのか?」
「うん、ジェーンさん、新聞の情報量は馬鹿にならないんだよ。特にこのロンドンでは、大手が扱わないような細かい事件も載せる小規模新聞もいろいろあって、代わりに聞き込みやってくれてるようなもんだからね。もちろん、記者の主観というフィルターを通してることは考えないといけないけど。……また、行方不明……、あ、こっちは無事発見か……」
「こういう時のお嬢様は、なにか重要なことを掴みかけているのですよ。そっとしておいてあげて下さい」
「ふーん、ま、頭脳労働はロッティ(シャーロットの愛称)に任せとけば間違いねーよな。お、サムライが大道芸だって。これクラークのことじゃないか?」
「むしろ俺以外にいたら驚きだよ」
 ……
「ふーむ、古書店主が殺害され、当方の所持していた『エイボンの書』が密室から盗み出されました、か……。魔術に詳しい方がおられればお連れ下さると幸いです、ね。差出人はアルバート・キースさん、住所は、イズリントン……、ふーん……」
「『エイボンの書』ですって!? シャーロットさん、その魔導書には上級の邪神を召喚する儀式の詳細が記されていると言われています。悪用されれば重大な危機に繋がるかもしれません!」
「古書店主殺害は新聞に載っている。密室……、首が持ち去られていた……。こちらも魔物の仕業である可能性が高い」
「あー、すみません、ちょっと寝不足でして……。ウルフ君、濃いめの熱いコーヒー、砂糖一個でお願い。……よし、じゃ、行ってみますか。ジェーンさんと苦楽さんもお願いします」
……
「お待ちしておりました。シャーロット・ブラウンさん、ウルフ・ジョンソンさん。アルバート・キースです。そちらの方々はご協力者ですか?」
「ええ、怪異の専門家です。それでは、さっそくお話を伺いましょうか」
「うわっ! 寒っ!」
「申し訳ありません。私は体質的に暑いのがどうしてもだめでして……。このように冷房を効かせております。さて、ここが問題の部屋です。完全に施錠した室内から、『エイボンの書』は消え失せました」
「なんでしょう、この足跡、ヒヅメのような……、窓の前で途切れています」
「ふーん……、ウルフ君、臭いはどう?」
「妙な臭いですね。動物でも人間でもありません。やはり窓の前で途切れています。外にはないようです」
「私に『エイボンの書』を売った古書店主のベックマン氏も、何者かに密室状況下で殺されました、持ち去られた首はいまだ見つかっていないそうです。他にも不可解な点が……、あの、ブラウンさん?」
「ああ、はい、聞いていますよ。続けて下さい」(本棚を見ながら)
 ……
「茶番はもうやめにしませんか。『エイボンの書』など、最初からなかったのではありませんか? この本棚、並んでいる本を見ると、植物図鑑、鉱物図鑑、歴史的建築物の案内書、地方の歴史についての本、植物の育成に関する本など、主がきわめて穏当な趣味の持ち主であることを示しています。とうてい、禁断の魔導書などというゲテモノに手を出すような人格とは思われません」
「それは、最近になって……」
「それに、その窓辺に置かれた植物。エアープランツに多肉植物。南米原産の珍しい植物です。本来、日光と陽気を好む植物ですが、カーテンは閉め切られ、そしてこの冷房。かなり弱っていますね。決して安くはない植物です。あなたが持ち主であるとするなら、考えられない扱いですね」
「……」
「細かいことを挙げればきりがありませんが、決定的なことを申しましょう。この屋敷で使われている冷房機器は、ハートランド社が14年前に発売したものですが、少し涼しい空気を送風する程度の性能しかありません。これほどの、底冷えのするような冷気を発生する能力はないのです。この冷気、一体どこから来ているのでしょうね」
「……」
「結論としては、あなたはアルバート・キースさんではない。いや、人間ではない。そうですね」
 ……
「ま、片付いたな」
「気色の悪いバケモンだぜ」
「目玉……、冷気……、おそらく、この黒幕は、ルリム・シャイコースだと思われます。氷の魔力を振るう妖神で、自分の目玉から作った使い魔を使役し……、食べた人間の、知識を吸収する、と言い伝えられています。おそらく、行方不明になった私たちの仲間は……」
「……そうですか……。それで、私たちのことを知り、遠ざけようとして、とけない謎をでっち上げたのですね」
「奴の本拠地を見つけ出さねば……! 犠牲者は増えるばかりだ」
「手がかりはあるはずです。館の中を捜索しましょう」
「お嬢様、帳簿を発見いたしました」
「さすがウルフ君! こういうのが欲しかったのよ。ふーむ、なるほど。後は……この辺になんか……、あった! これ、見て下さい。キースさんはとても几帳面な方だったようですね。出費を細かく帳簿につけています。で、この帳簿の最後の日付が15日、そして、これ、ごみ箱に捨ててあった領収書、ハロー地区のセントアンズで本が二冊と、植物用肥料、プレッツォ・ハローのディナー、これが16日です。これを最後にお金の出入りはない……、つまり必要なくなったと考えられます」
「ハロー地区か」
「ある程度の大きさのモンスターが潜み、人目につかない場所。墓地周辺、線路沿いの倉庫街が怪しいですね。行ってみましょう」
「(小声で)お嬢様は、依頼の手紙が届いた時点で、すでに疑われていたようにお見受けしましたが……」
「(小声で)ウルフ君はやっぱり私のことよく見てるね。うん、疑う根拠はあった。でもまだ確信できていなかった。だから来てみたの。もう少ししたらみんなにも話すね」
 ……
「残穢(ざんえ)は、この辺りで途絶えていますが……」
「! 見ろ、ユーミル!」
「ドアになにかめり込んで……、これは! ウィリアムさんの指弾……!」
「……血が、ついている。おそらく、最後の力で、なんとかヒントを残そうと……」
「ウィリアムさんっ……!」
「……さて、それでは、皆様……」
「おう、殴り込みの時間だ! 片っ端からぶっ殺す!!」
「今宵の幸綱は、血に飢えているっ、てな……!」
 ……
「……あれが、ルリム・シャイコース……、なんというおぞましい姿……!」
「その巨体を得るまでに、何人の人間を食らった……!! やるぞ、ユーミル!」
「ええ! 顕現せよ!! 断罪の刃、デュランダル!!」
 ……
「天魔、断罪っ!!」
「外道、必滅!」
 ……
 翌日。
「ウルフ君、車を出して」
「はい、お嬢様、どちらに」
「大英図書館へ。『ネクロノミコン』の閲覧許可をもらいに行くわよ」

呪文はモンスターを見上げている画像のものです。残り三話で完結です。

呪文

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イラストの呪文(プロンプト)

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