【深紅の楽団】

劇場では毎年一度だけ、
客席の灯をすべて消して演奏する夜があった。

奏者たちは深紅の衣装をまとい、
誰もいない暗がりへ向かって音を重ねていく。

中央の彼女はコントラバスの胴に頬を寄せ、
床下から返ってくる微かな振動を待っていた。

かつてこの舞台で指揮をしていた父は、
最後の公演を終えた翌朝から姿を消した。

残された譜面の終わりには、
休符がひとつ多く書かれていた。

終楽章の直前、
彼女はその休符を誰より長く守った。

沈黙の底で古い指揮棒が床を叩き、
楽団は合図を受けたように最後の音を放った。

客席の闇から赤い帽子がひとつ転がり出たが、
振り返る者はいなかった。

呪文

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