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下層第六エリア――
そこはまるで地下に広がる別世界だった。

果ての見えない大空洞。
青白く発光する巨大結晶が天井から垂れ下がり、
壁面には銀色の鉱脈が無数に走る。

氷のように冷えた空気の中に、
金属が焼けた匂いが混じる。

「……いるのは確かなんだがな。」

重い足音を響かせながら、スレイマンは歩く。

地面には新しい爪痕。
岩壁の一部は高熱で溶け、
直後に凍り付いたようにひび割れていた。

冰鉄煉ダダダ。本来ならもっと深層に現れる魔獣だ。
だが無限迷宮では、稀にこういうことが起きる。

迷宮の機嫌か。核の揺らぎか。
理由を知る者はいない。

ただ一つ確かなのは――

「この辺りにいる。」

その時だった。

「――きゃあああっ!!」

甲高い悲鳴。遠く。
だがはっきり聞こえた。

続いて、金属の激突音。岩盤を揺らす咆哮。
そして――冷気と熱気の混ざった突風。

スレイマンの瞳が細まる。

「……見つけた。」

次の瞬間。
ガシャガシャガシャッ!!

常人では考えられない速度で、重装の巨体が駆けた。

結晶の森を抜ける。巨大な岩柱を回り込む。
そして視界が開けた。

――戦場だった。

血が飛び散っていた。砕けた剣。割れた盾。
潰れた胴体。千切れた腕。
赤い血が凍り付き、
白い霜に混ざって地面に張り付いている。

その中心…巨大な氷晶のような外殻を纏った魔獣。
額の一つ目が青白く燃え、
全身から冷気と炎が渦巻いている。
冰鉄煉ダダダ。

そして、その前に立つ生存者は二人だけだった。
若い男が震える手で剣を構えている。
隣では若い女が膝をつき、完全に腰が抜けていた。

ダダダが咆哮を上げる。巨大な爪が振り上がる。

その瞬間。
――ドゴォォン!!

鉄塊のような大剣が横から叩き込まれた。
爪が弾かれる。氷片と火花が爆ぜる。

「……ったく。」

スレイマンが低く唸る。

「若ぇのに無茶しやがって。」

ダダダの一つ目がぎょろりと向く。
スレイマンは大剣を肩に担いだ。

「おい、
 トカゲ料理の材料にされたいなら別だが――」

ギラリと赤い瞳が光る。

「逃げろ。」

若い男が呆然とする。

「で、でも……!」

「走れっつってんだ!!」

咆哮のような一喝。
男の身体がびくっと跳ねた。
その瞬間。ダダダが飛びかかる。
爪。尾。氷炎の噴流。

だが――

ガァン!!ガギィン!!ズドォン!!

全て、大剣で受け流される。
スレイマンは一歩も引かない。
ただ受ける。流す。弾く。
巨大な魔獣の猛攻を、
ただ一人で正面から捌いていた。

外から見れば防戦一方。
押されているようにしか見えない。
だが実際は違う。

「遅ぇ。」

大剣で爪を逸らす。

「軽ぃ。」

尾を受け流す。

「……温度はまぁまぁだな。」

炎と冷気を正面から浴びながら、平然と呟く。
若い男女は息を呑んだ。何だこいつは。

ダダダと真正面から殴り合って、
無事でいられる存在なんて聞いたことがない。

「行け!!」

再び怒鳴る。男は女を抱き起こし、必死に走った。
その背が離れていく。
スレイマンはちらりと確認し――

口の端を吊り上げた。

「よし。」

その瞬間。鎧の隙間が赤く光った。
胸部。肩。腰。膝。魔術導線が一斉に脈動する。

――プシィィィィッ!!

大量の蒸気。
白い爆煙のような蒸気が周囲を覆い尽くした。
結晶の洞窟が真っ白になる。

視界ゼロ。ダダダが吠える。

冷気と炎の突風を巻き起こし、
一気に蒸気を吹き飛ばした。

視界が開ける。そして――
若い冒険者たちは、目を見開いた。

そこにいたのは。もう“人型”ですらなかった。

鋼鉄の装甲が展開し、各部が伸長。
肩は岩壁に届くほど膨れ上がり、
腕は丸太のように太い。
全高は、ダダダとほぼ同等。
巨大な尾が地を叩き、結晶が砕ける。
真紅の瞳がヘルムの奥で燃えていた。

「――よぉ。」

低い声が響く。
スレイマンは巨大化した大剣を片手で持ち上げる。
蒸気が背から吹き上がる。

「やっと本番だ。」

ダダダが吠えた。スレイマンも牙を剥く。
氷と炎の魔獣。鋼と蒸気の重装。

無限迷宮第六エリアの大空洞で。
両者は同時に踏み込み――
地面が爆ぜた。

呪文

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