夏の炎天下、陸上部のロードワークの途中で恭平は木陰のベンチに倒れ込み、あえぎながらボトルを傾けていた。あまりの暑さにくらくらと視界が揺らいだその時、軽やかな足音とともに一人の人影が近づいてくる。

「先輩、こんなところでバテてちゃダメですよ。日差しが強すぎます。私のパーカーに一緒に入りますか?」

見上げると、後輩の遥香が水色のパーカーのフードをすっぽりとかぶり、楽しそうに微笑んでいた。彼女はひょいとパーカーの大きな裾を広げ、走っている最中であることも忘れて恭平のほうへとぴたりと身を寄せてくる。
距離が縮まった瞬間、汗ばんだ白い体操着の布地が肌にうっすらと張り付いているのが視界に入った。ほんのりと湿った生地越しに、健康的な体温とドキッとするほど甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。

「うおっ!」

恭平は心臓の音が外まで聞こえそうな勢いで跳ね上がり、とっさにガタッと数歩分後ろへと飛び退いた。
遥香はきょとんと目を丸くし、自分の胸元やパーカーの裾を慌てて覗き込む。

「え……? 先輩、そんなに離れなくても……。私、そんなに汗臭かったですか?」

うっすらと潤んだ瞳で不安そうに眉をひそめる遥香を見て、恭平は慌てて両手をブンブンと振った。

「ち、違う違う! 臭いなんてとんでもない! ただその……心の準備が……!」

吹き抜ける爽やかな木漏れ日の風が木々を揺らす中、二人の間に甘酸っぱい沈黙と夏の陽射しが降り注いでいた。

呪文

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