【マタタビ】10.次なる目的地

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(前の話)
【マタタビ】9.メイドカフェの上客
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 結局、グリルスは、開店から閉店まで居座ってシロと戯れていた。

「イッテラッシャイマセ、ゴシュジンサマ」

 退店時、名残惜しそうに手を振るグリルスに、シロは手を振り返すこともなく見送る。

 その夜、客のいなくなったポームムのホールにメイドたちは集められた。そして、シロはラポームに呼ばれ、メイドたちの前に出る。シロが、何事かと首をかしげていると、ラポームが封筒を手渡してきた。

「シロさん、今日までよく働いてくださいました。はい、お給料です」
「おきゅーりょー?」

 シロは、何を渡されたのか分からないまま、封筒を受け取る。

「あなたの働きに対するご褒美ですよ」

 シロが封筒を開けて中身を取り出すと、そこには、10万円が入っていた。

「このお金は、あなたが働いて得たお金です。あなたの好きなように使っていいのですよ」

 そう言われて、シロはそのお金をそのままラポームに渡して言った。

「私は、星の樹の情報が欲しいです」

 それを聞いて、ラポームは笑顔で頷いた。

「分かりました。それでは、このお金を対価に、星の樹に関わる情報をご提供します」

 ラポームは、封筒をメイド服のポケットにしまい、改めてシロに向き直って言った。

「“ルースト005”を目指してください」
「るーすとぜろぜろごー?」

 シロは、首を傾げる。俺は、シロに代わって情報の詳細を確認する。ラポームによると、
ルースト005とは、ニューナゴヤの地下に存在する大規模なシェルターのことらしい。

「そこに、何があるんだ?」
「ルースト005の最深部に、世界崩壊前に運び込まれた大規模データサーバとサーバに接続された人工知能があり
ます。そこに辿り着くことができれば、星の樹に関する真実を知ることができるでしょう」
「なるほど……。そのサーバに、星の樹に関する情報が眠っているのか」

 星の樹そのものに関する情報ではないが、十分に価値のある情報だ。

「それから、これをシロさんに」

 ラポームは、ラッピングされた筒のようなものを取り出し、シロに差し出した。

「これは、私たち皆からシロさんへの初給料のお祝いです。ルースト005に到着したら開けてください」
「ありがとう!」

 シロは、喜んでそれを受け取る。ルースト005で役に立つアイテムだろうか。俺は、中身が気になったが、シロが貰った物なので口には出さなかった。

「ご主人様」

 ラポームは、俺に話しかけてきた。

「数日間シロさんをお預けくださって、ありがとうございました」

 俺は、何もせずに見ていただけなので、お礼を言われる筋合いはないが、悪い気はしないので軽く頷く。

「それから、もう一つだけ」

 ラポームは、人差し指を立てて言った。

「何だ?」
「星の樹の予言を追って、“黄昏梟”や“越夜隊”も動いているようです。くれぐれもご注意ください」
「何だと?」

 ラポームから伝えられたのは、思った以上に悪い情報だった。“黄昏梟”とは、失われた知識や技術を求める研究者集団だ。一方、”越夜隊”は、この先に訪れるとされる真なる滅びを超え、新たな世界での覇権を狙う狂信的な武装集団だ。奴らは事あるごとに対立をしている。奴らの争いごとに巻き込まれると、命がいくらあっても足りない。

「厄介だな……。奴らは、何故星の樹の予言を追っているんだ?」

 俺がそう聞くと、ラポームは、ビジネススマイルで答えた。

「これ以上の情報は、追加料金となります」
「そこは、しっかりお金を取るんだな……」

 商売上手なメイドだ。だが、それがこのポームムを大きな店にしたのだろう。俺は、追加料金を払うつもりはないと告げる。次なる目的地の情報さえ得られれば十分だ。俺は、横にいるシロの側に行って、シロを褒めてやった。

「よく頑張ったな、シロ。お前のお陰で星の樹の真実に一歩近づいたぞ」
「えへへ」

 シロは、嬉しそうに笑った。この数日間で、シロは少し変わったように見えた。表情が豊かになり、話し方もより人間らしくなったと感じる。メイドたちの影響だろうか。良い事だ。

 情報を得た俺たちは、ルースト005に向けて出発の準備を進める。メイドたちは、シロとの別れを惜しみ、シロに話しかけたり、抱き着いたりしている。初めはバトラー型シンカロンであるメイドたちを警戒もしたが、一緒に過ごしてみれば、とてもいい奴らだった。俺も、メイドたちに抱きかかえられながら、別れを惜しむ。

「行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様!」

 俺とシロは、メイドたちに見送られ、ポームムを後にした。カフェの温かい光を背にして、俺たちは夜の街へと足を踏み出す。ニューオオスの街は、ネオンライトが鮮やかに輝き、まるで星々が地上に降りてきたかのような光景だった。シロはその光景を見ながら、感慨深げに呟いた。

「ねぇ、クロ。私、ここに来てよかった」
「何故そう思う?」

 俺は、話の続きを促した。

「美味しいものを食べた。優しい人たちに出会えた。綺麗な夜景を見られた。どれもこれも、旅をしていなかったら出会えなかったと思う」

 シロは、思い出を噛みしめるように言った。

「私……旅人でよかった」

 俺は、シロの言葉に同意した。

「旅は未知との出会いだ。俺も、お前と一緒にここに来れてよかったと思っている」

 俺たちは、この街の光の中で、次なる冒険への期待を胸に歩き出した。

「ねぇ、クロ。星の樹も、この街の夜景みたいに綺麗なのかな?」
「だといいな」

 俺たちは、まだ見ぬ星の樹を想像しながら、その予言の謎を解き明かすために、星の樹に関する情報が眠る、ルースト005を目指した。

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(次の話)
【マタタビ】11.黄昏梟の密会
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