突然の夕立。
びしゃびしゃになったふたりは、屋根付きのバス停に駆け込んだ。

「寒い……っ」
新米教師・紫峰怜花がぶるりと肩をすくめると、隣の狭霧華蓮も、静かに小さく頷いた。


ふたりは並んで座る。雨音はどんどん大きくなり、逃げ場を失った空気がじっと周囲に沈んでいた。

怜花が両手をこすり合わせていると、隣の華蓮が、そっと言った。

「先生。手、貸してください」
「え? どうしたの?」
「寒さを和らげるには、皮膚接触による体温交換が最も効果的です」
「……それってつまり、手をつなぐってこと?」
「はい。そうです」

そう言って、華蓮はすっと手を差し出す。
怜花は一瞬ためらったが、震えた指を重ねた。

「……あったかい」
「先生のほうが少し、冷たいです」
「ちょっと恥ずかしいんだけど……これも授業の一環ってことで」
「保健体育、ですね」

くすっと笑い合ったあと、少し沈黙が流れる。

「先生」
「ん?」
「雨って、どこか懐かしいですね」
「うん……。なんでかな」
「たぶん、音が包むからです。世界の輪郭がやわらかくなる」
「素敵ね……詩人みたいなこと言うのね」
「先生が、そういう気分にさせるだけです」

怜花は、ほんの少しだけ頬を染めて、そっと視線を逸らした。

バスは来ない。雨も止まない。

けれど、手のひらにじんわりと宿るぬくもりだけは、どこか確かなものだった。

「ねえ、先生」
「なに?」
「このまま、もうちょっと雨宿りしててもいいですか?」
「……そうね……もう少しだけね……」

雨は降り続く。
ふたりは、同じ屋根の下で、手を握り合いながら、しばらく世界の一部になっていた。

呪文

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