本日のランチ
木のテーブルに置かれた瞬間、まず鼻に来たのは揚げ物の香ばしさ──ではなく、柚子の香りだった。タルタルの白い山に散った柚子皮が、ふっと立ち上がる。カキフライは冬の定番だが、香りの入口を変えるだけで、別の料理になる。今日はその変化が最初の一秒で分かる。
衣は粗めで、表面の粒が立っている。箸で持ち上げても油の重さが残らず、乾いた軽さがある。噛むと“ザクッ”と短く割れて、中の牡蠣がとろりとほどける。身が縮んでいない。牡蠣の甘みがまず出て、次に磯の気配が控えめに残る。揚げ色も濃すぎず、苦みが出ないところで止まっている。ここまでで、ソース無しでも成立しているのが分かる。
まずは藻塩。これが良い。塩は塩味を足すというより、牡蠣の甘みを引き上げる。衣の香ばしさと牡蠣の旨みが、急に輪郭を持つ。次に柚子タルタルを少し。タルタルのコクはあるが、柚子の香りが出口を作るから重くならない。ピクルスの酸味で押すのではなく、柚子の香りで軽くする。ここが先月との違いだろう。タルタルが主役になりすぎず、牡蠣を引き立てる役に回っている。
レモンをひと絞りすると、さらに景色が変わる。柚子の香りと柑橘の酸が重なり、揚げ物の余韻がすっと引く。牡蠣フライは、濃厚なのに軽く食べられる瞬間がある。それを作るのが柑橘だ。ソースで塗りつぶさず、香りで整える。今日はその組み立てが見事だった。
付け合わせの水菜と千切りキャベツが、ここでも仕事をする。水菜の青い香りは柚子と相性が良く、口の中が一度リセットされる。紫キャベツのマリネは酸味の方向が違うから面白い。揚げ物に対して、こうした小さな酸味があると、食べるリズムが整い、最後まで飽きない。ミニトマトの赤も、皿の景色を締めてくれる。
白飯は言うまでもないが、今日は“押されて進む”のではなく“軽く進む”。藻塩で食べた牡蠣の余韻が米の甘みに乗り、柚子タルタルの香りが後味を整える。味噌汁が控えめなのも好ましい。主菜の香りを邪魔せず、温度だけを足してくれる。揚げ物の定食なのに、食後が重くならない。柚子の力だと思う。
締め
カキフライ定食は冬の定番だが、今日は“柚子”で入口と出口を作った一皿だった。粗めの衣のザクッとした食感、縮まない牡蠣のとろり、藻塩で甘みを立て、柚子タルタルで香りを添え、レモンで後味を切る。定番を別の表情で食べさせる、良い更新だった。
次回予告
次回は、揚げの香ばしさから一転して、出汁の“透明感”へ。澄んだつゆ、やわらかな具、柚子の余韻が静かに残る――。次は鶏団子と春雨の旨塩スープ定食を取り上げようと思う。
呪文
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