初盆

「君、私が見えるの?」と彼女はそう言った。
今日の最高気温が37度の日中、彼女は冬服の制服だったのだ。
思わず声をかけて、しまったと思った。彼女はこの世のモノではない。
「今年の2月、交通事故でね。死んじゃったのよ。なんか、暴走車に首が飛ばされたらしいけど即死だったからね。イマイチ死んだ気がしなかった。」
「君は死んだんだよと亡くなった曽祖父母や祖父が説得してくれて、まあ、納得して49日には成仏したよ。」
彼女はクルクルと回っておどけた。俺は気温37度で汗だくなのに、冬服の彼女は汗ひとつない。
死人であることは明確だった。
「今年が私の初盆なんだ。久しぶりに自宅に帰れるよ。ああ、それから君さあ、霊の皆が納得して死んだわけじゃないから安易に声かけちゃだめだよ。」
彼女は行こうとして立ち止まった。くるりと振り返る。
「君、私と何か関係あったっけ? 」くるくると大きな眼が俺を見る。
俺は首を横にゆっくりと振って笑った。
「 ごめん、そうだよね、頭が飛んだせいかなあ。生前の記憶が曖昧なんだ。なんか凄く大事な約束があったような気がする。ごめんね」
彼女は手を振りながら普通に歩いて去った。
あのまま自宅に帰るのだろう。

そうだ・・・そうなんだ・・・俺は君に告白しようとした前日に君は事故にあった。
病院に駆け付けた際には、もう亡くなったと君の両親に言われたよ。
遺体の損傷が激しくて、大変申し訳ないが会わせることは出来ないとも言われた。
(飛ばされた頭部が発見されたのは4日後だった。頭の後部は損傷が酷いが顔は綺麗だったと聞いた。見つけた年配警官が思わず泣いたと言う)
君に会うのは、仏壇の前の方が良いらしいね。
俺は真夏の白昼夢に涙が流れた。