逃げろ、尊氏

時は延元元年（1336年）。後醍醐天皇が主導する建武の新政は、その理想の高さゆえに各地で不満を生み、足利尊氏はその隙を突き、自らの勢力拡大を図っていた。しかし、摂津湊川の戦いを筆頭に、新田義貞、楠木正成ら忠臣たちの活躍により、尊氏は決定的な敗北を喫することとなる。この敗戦は、足利尊氏の野望に暗い影を落としただけでなく、京都周辺の支配権をも揺るがせる契機となった。
尊氏は、このとき味方が四散する中、己の命だけでも守るべく、西へと逃れることを決意する。戦火で傷ついた鎧は幾本もの矢が突き刺さり、彼の敗北を如実に物語っている。その姿を見た者たちは、尊氏の威勢が失われたかのように思えたかもしれない。だが、尊氏の胸中には、一縷の望みと挫折からの復活への執念が燃えていた。「まずは西だ……生き延びねば話にならぬ。逃げられるだけ逃げて、それからすべてを考え直すのだ」と、彼は荒れる馬を操りながら思索する。
西国は、尊氏にとって新たな反攻の基盤を築くための土地だった。その広がる地平線の向こうには、力を蓄える余地と、新しい味方を求める希望が見えたのだろう。尊氏の策謀は、すでに一つの敗戦を超えて、大局を見据えた戦略に切り替わっていた。
のちに足利尊氏は、九州へと逃れた先で体勢を立て直し、再び京都奪還を目指す。その戦いの末に開かれる幕府が日本史に与えた影響は計り知れない。しかし、この時点では、それらが実現するかどうかは誰にも分からなかった。目の前に広がる西への道は、無情に彼の運命を試しているかのように見えた。
尊氏のこの逃走劇は、敗北の中に潜む希望と野望を象徴している。歴史の荒波に飲まれながらも再起を目指した彼の姿は、時代を超えて語り継がれるにふさわしい、一つの人間ドラマであった。

能力名：室町幕府の礎
防衛拠点の耐久力を増加させ、自軍の維持費を削減する。

能力名：乱世の覇者
部隊編成の柔軟性を高め、混乱した戦局での士気低下を防ぐ。