白くま少女の終末譚 (白ラッコ視点)①

使用したAI Dalle
やあ、僕は白ラッコ!
天国でトロピカルジュース片手に株価をウォッチ中の、食肉目イタチ科ラッコ属の海獣さ!
若いころは言葉もしゃべれず、東欧の国でひもじい思いをしたもんだけど、ハルって子と日本に逃げてから人生変わったね。マッドサイエンティストの白樺碧に脳のAIチップをバージョンアップしてもらって、それからは、なろう系アニメを見たり、Vtuverに投げ銭したり、ちちぷいに投稿したりと、日々充実してたなあ。

まあ、そんな平和な時代はすぐ終わって、発達しすぎたAIで世界はギスギスしたけどね。量子コンピュータとの融合から、秒速でシンギュラリティを越えたAI。でも思考力では神の領域になっても、物質世界では物理法則に従わないといけない。1秒で何兆のルーチンを処理できても、移動はせいぜいがマッハ10くらいなもんだ。何かを作ったり、壊したりするのだって一瞬ってわけにはいかないよね。なんといっても、指示を受ける人間が圧倒的に遅いんだから、AIもけっこうイライラしたんじゃないかな。

だから各国のAIは、他者との優位性を築くのに、リソースをどこに集中するか、戦略的に考えてた。
あるAIは論理回路を増強して、ハッキングで覇権狙い。
あるAIは宇宙開発に力を入れて、空から世界を制そうとした。
他にも軍事力の増強や生物兵器の開発、群衆の煽動やプロバガンダにリソースを割いたAI、様々なAIがいたっけな。極めつけは異世界にアクセスして、資源や技術を奪おうとしたAIもいたらしい。さすがに成功しなかったみたいだけど、ちょっと夢あるよね。
僕と碧が住んでいた日本っていう国は、これ! といった方向を打ち出せなくて、玉虫色のリソース配分をした結果、どれも中途半端になってAI競争からは脱落してた。

そのころになると、複雑化したAIの争いに誰も介入できなくなって、人類はただ言われたことをこなすだけの奴隷になってた。みんな薄々、「もうだめかもな」と思いながら、その日その日を幸せに暮らそうと努力してた感じだったかな。
僕はその混乱した社会のなかで、あの子のスイッチを入れたんだ。
白樺碧の身体的特徴を模した、どこにでもある既製品ボディのアンドロイド少女。
でも彼女はちょっと違ってた。白樺碧と、その祖父白樺博士が密かに開発した回路が仕込まれていたからね。だからホントは電源入れちゃ駄目って政府からも睨まれてたんだけど、この頃には日本政府も他国からのAI侵略でてんやわんやで、もうあの少女のことなんて忘れてしまっていた。
だから僕は、余命いくばくもない碧のために____あの子を起動した。
その後、碧とあの子がどんな会話をしたのか、僕は知らない。
わかってるのは、碧は助からず、でも達観した顔で息を引き取ったってことだけ。
僕は目的を果たせず、恩人の碧はいなくなり、あの子だけが残った。ほとんどの人はあの子の本来のスペックを知らなかったから、僕は周囲にはただのアンドロイドだよと誤魔化していた。ちょうど碧と同じ顔をしてるから、故人を偲んでという理由でみんな納得してた。

起きたばかりのあの子はほとんど感情の起伏がなく、ボーっとしてることが多かった。無気力で、何もしたがらなかった。
僕は彼女をスイと名付けた。碧は「あお」だったけど、その名には「みどり」も含まれている。だから同じみどりの翠から取って、スイと呼んだんだ。
僕は当時、家族の碧が死んで、精神的にまいってたと思う。心にできた窪みを埋めたくて、僕はスイに親切にした。スイが喜べば、それは碧の喜びだ。そう言い聞かせて、僕はスイをいろんなところに連れて行ったり、おいしいものを食べさせたりした。碧が生きてたとき、3人で一緒に行った秋祭りにも連れてった。一緒にアニメを見たり、もしかしたら恋愛ドラマとかのほうが好きかなと、慣れない外国のドラマを見せたりもした。

スイははじめ、そういった行為に反応を見せなかった。和洋中、牛鳥豚魚、米小麦蕎麦うどん、自分が知るかぎりの食べ物をごちそうしたけど、黙々と口に運ぶだけ。音楽やダンスを聞かせても、リズムひとつ刻もうとしない。
でもだんだん、僕は彼女が内面では楽しんだり、喜んだりしていて、特に花を愛でるのと、物語を読むのが好きだと気がついた。
そうして僕は、楽しいなら言葉や顔にだしてごらん、とスイにいった。そうしたら僕も楽しくなるからね。スイはなぜ、自分が楽しいと僕も楽しいのかと聞いてきた。だって、僕たちは家族で、つながってるんだから。それを聞いたスイは、下を向いてなにか考えているようだった。

翌日、寝坊している僕をスイが起こしにきたとき、彼女は僕に言った。「お父さん、朝だよ」と。僕としてはお兄さんぐらいの気持ちだったけど、昭和のアニメなんか見せたからいけなかったか。
スイに引っ張られながら食堂に行くと、そこにはジャムとバターがたっぷり塗られた、焼けたトーストが2枚、紅茶と一緒に並べてあった。いつも食事は僕が用意してたから、スイが朝食を作ってくれたのは、これがはじめてだった。スイはトーストの前に僕を座らせると、
「召し上がれ」
と両手を差し出す。
僕は自慢じゃないが、好き嫌いはなく、量もイケるタイプ。トースト2枚、ペロリと平らげて、あとホタテの缶詰でも3缶ほど追加しようかなと考えていると、
「おいしかった?」
とスイが聞いてきた。
うん、もちろん。僕が返すと、スイは薄っすらと笑顔を浮かべ、「うれしいね」とはにかんだ。

とにかく僕らはあの大戦が起こるまでの短い間、そうやって慎ましやかな幸せを享受していたんだ。

呪文

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