ビア・タワーズ・ワールドカップ

『ビア・タワーズ 〜泡の頂を目指して〜』

世界最高峰のビール缶積み大会、「ビア・タワーズ・ワールドカップ」。
その決勝戦の舞台、ベルギー・ブリュッセル特設アリーナには、数万人の観客が息を呑んでいた。

「ここまでか……」

日本代表の彼女は、握り締めた缶に流れる汗を感じながら、目の前の光景に歯噛みしていた。
目前にそびえるのは、ドイツ代表のビールタワー――高さ7.32メートル、すでに世界記録超え。

（この高さを超えない限り…負けだ…！）

彼女のタワーは、ビール缶153本分、高さ6.95メートル。あと40センチを積めば逆転できるが――この高さでの追加積みは神の領域。
この数分で形勢を覆せなければ、敗北は確実だった。

「諦めるのか？お前のタワーは、そんなもんかよ。」

観客席から飛んできたのは、師匠「伝説の積み師」の声。
全日本ビア・タワー協会（JBA）の元王者であり、彼女がこの道を志したきっかけの男だ。

「……くっ！まだ！」

彼女は震える手で、新たなビール缶を掴んだ。崩壊のリスク、汗で滑る指、呼吸を乱す緊張。すべてを押し殺し、今はただ、積み上げることだけを考える。

相手は世界最強のライバルたち。

"ドイツの塔" ハンス・グロックナー
"ロシアの氷壁" セルゲイ・ドストエフスキー
"フランスの優雅なる積み人" ジャック・ル・モンド
"中国の迅雷" 王 龍飛（ワン・ロンフェイ）

幾多のライバルを乗り越え、ここまで来た。負けるわけにはいかない！

彼女は静かに缶を持ち上げ、決死の覚悟でタワーの頂点へと伸ばす――。

勝負の行方は、この一手に託された！