美優ちゃんのプリン事件

昼下がりのリビング。
美優ちゃんは冷蔵庫を開けると、中にあるはずの自分のプリンが消えていることに気づいた。

「……ん？」

一瞬、見落としたのかと思い、もう一度しっかり確認する。
しかし、どこを探してもプリンはない。

「……ねぇ、お義兄ちゃん？」

背後から、冷蔵庫の扉を閉めながら声をかける美優ちゃん。

「ん～？ なんだい？ 美優」

ソファでくつろぎながらゲームのコントローラーを握っていたお義兄ちゃんは、
適当に返事をしつつ、画面に集中していた。

しかし、次の美優ちゃんの一言でその意識は一気に現実へと引き戻された。

「冷蔵庫にしまってあった私のプリン、知らない？」

——し、しまったーーー！！！

お義兄ちゃんの心の中に、警報が鳴り響く。
ついさっき、何気なく冷蔵庫を開け、目の前にあった美味しそうなプリンを何も考えずに食べてしまったのだ。
まさか、それが美優ちゃんのものだったとは……。

「ん？？ ぷ、プリン？ 何のことかなぁ～？」

お義兄ちゃんは、あくまで平静を装いながらすっとぼける。
だが、ゲームのキャラが突如として変な動きをし始めた。
動揺が操作にも現れている。

「……」

美優ちゃんは、無言でお義兄ちゃんにじわじわと詰め寄る。

「…………」

その沈黙が何よりも恐ろしい。
お義兄ちゃんは、顔を引きつらせながらじりじりと後ずさる。

「正直に話せば、今ならまだ許すよ？」

美優ちゃんの表情は変わらない。
だが、その目は笑っていない。

「お・に・い・ちゃん」

耐えきれなくなったお義兄ちゃんは、ついに観念した。

「……ご、ごめんなさい！！」

土下座！！

床に額をつけ、完璧な土下座の姿勢で謝罪するお義兄ちゃん。

美優ちゃんは、しばらくじっと彼を見つめた後、軽くため息をつく。

「……貸し一個だね」

「は、はい……」

お義兄ちゃんは心の中で思った。

（貸しで済むなら安いくらいだ……）