慶長二十年(1615年)、大坂城——。
豊臣家と徳川家の決戦が迫るなか、一室に対峙する二つの影があった。ひとりは、かつての主家・武田氏滅亡後も幾度の戦を生き抜き、徳川家のために働き続けた智将・真田信尹(のぶただ)。もうひとりは、大坂城五人衆の一人として豊臣家を支え、己の信念のために戦うことを選んだ、信尹の甥・真田信繁(のぶしげ)。
「信繁……この戦、徳川の勝利は動かぬ。豊臣に未来はない。お主の才を無駄にするな。もし今、家康公に降るならば——」
信尹の口調は静かだったが、その言葉には計り知れぬ重みがあった。齢五十を超えた老将は、戦国の荒波を渡り、勝者に従うことで一族を存続させる道を選んできた。その彼が今、甥の命を救うべく、最後の説得を試みる。
「お主が徳川に付けば、上田の旧領を回復し、加えて加賀の一部をも領地として与えると、家康公も仰せだ。お主ほどの器ならば、将軍家にも取り立てられよう……」
しかし、信繁は微動だにせず、赤き鎧の下に宿した決意を揺るがせることはなかった。
「伯父上、ありがたきお言葉。しかし……」
信繁はゆっくりと右手を前に突き出し、顔を横に振ると、口を開いた。
「無理ぽ。」
——一瞬、沈黙が降りた。
信尹の眉間に深い皺が刻まれる。
「い、今なんと?」
「ですから、無理ぽ、でございます。どれほどの領地を頂こうと、どれほどの位を約束されようと、私は豊臣のために戦う所存。徳川の世が確定しようと、私の信念は変わりませぬ。」
信尹は深いため息をついた。もとより、彼の性格は理解していたつもりだった。信繁は、目の前の勝算ではなく、己が武士としてどう生きるかを重んじる男であることを。
「……お主の気性の頑固さは、兄上(昌幸)譲りよのう。」
信繁はふっと笑みを浮かべた。
「武田の世から受け継いだ気性にございます。伯父上も、武田の教えをお忘れではありますまい?」
信尹は苦笑し、ゆっくりと立ち上がる。
「わしの役目は果たした。あとは己の道を行け……しかし、せめて生き延びよ。信繁、お主ほどの才が、ここで朽ちるのは惜しい。」
「その心遣い、感謝いたします。しかし、これが私の生き方。この戦、最後まで戦い抜きましょう。」
そうして、二人の道は決定的に分かれた。翌日、信繁は決戦の場・天王寺口へと向かい、その名を歴史に刻むこととなる——。
能力名:赤備えの猛将
防衛戦での攻撃力を大幅に強化。
能力名:九度山の逆襲
敗北寸前で一度だけ味方の士気を回復し、反撃のチャンスを作り出す。