前回「メイドカフェの扉の向こう」からの続き
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最後の客を見送ったあと、メイドカフェ「リリィ」の店内には、昼間とは違う静けさが戻っていた。

アルバイトメイドたちはテーブルを拭き、椅子を整え、カップや皿を厨房へ運んでいる。

オレンジ色の短い髪をした執事さんは、入口の札を「営業中」から「準備中」へ裏返した。

「本日のご帰宅、すべて終了です」

「お疲れさまでしたー!」

店の奥から、アルバイトメイドたちの声が返ってくる。

その直後だった。

「では、ただいまより!」

店長さんが店内中央のテーブルに、大きな模造紙を勢いよく広げた。

「夏ファッションショー・コラボメニュー緊急企画会議を始めます!」

赤いツインテールが大きく跳ねる。

模造紙の中央には、赤い文字でこう書かれていた。

――学生モデル×メイドカフェ
真夏のお帰りファッションメニュー!

料理メイドは、厨房から調理器具を片づけながら静かに言った。

「店長さん。名称がすでに長いです」

「企画名は勢いが大事なの!」

「メニュー名まで長くしないでください」

「そのつもりだったのに!」

料理メイドは聞かなかったことにして、店長さんの向かいに座った。

執事さんとアルバイトメイドたちも、それぞれ椅子を寄せて集まる。

昼間に学生モデルたちが座っていたテーブルには、今度は色鉛筆、メモ帳、食材の仕入れ表、試作写真が並べられた。

「学生さんたち、いい子たちだったね」

淡い水色のメイド服を着たアルバイトメイドが言った。

「青髪のリーダーさん、店長さんに圧倒されてたけど」

「私の歓迎は完璧だったでしょう?」

店長さんが胸を張る。

執事さんは苦笑した。

「最初の三十秒で帰られなくてよかったです」

「何ですって?」

「いえ、何も」

黒髪のアルバイトメイドが手を挙げた。

「紫髪のモデルさん、料理メイドさんのこと、ずっと見てましたよね」

料理メイドは表情を変えない。

「衣装を見ていただけです」

「料理もすごく気に入っていました」

「料理店として当然です」

「でも、ちょっと嬉しかったでしょう?」

「別に」

料理メイドはそう答えたが、仕入れ表を見る目がわずかに柔らかくなった。

店長さんが両手をたたく。

「それでは本題! コラボメニューは、三人の学生モデルさんをイメージしたものにします!」

「三人それぞれ一品ですか?」

アルバイトメイドが尋ねる。

「いいえ!」

店長さんは大きく首を振った。

「三人を一皿にまとめます!」

料理メイドの眉がわずかに動いた。

「嫌な予感がします」

「まず、青髪のリーダーさんを表現するために、青いカレー!」

「却下です」

料理メイドが即答した。

「まだ説明が終わってない!」

「食欲を損ないます」

「では、青いそうめん!」

「着色料に頼りすぎです」

「青いオムライス!」

「卵を青くする理由がありません」

店長さんは模造紙に書いた「青いカレー」を悔しそうに二重線で消した。

「料理メイドは夢がないわね」

「食べ物ですから」

執事さんが遠慮がちに手を挙げた。

「青髪の方は、落ち着いた印象でした。冷たいスープや、透明感のあるゼリーなどはどうでしょう」

料理メイドがうなずく。

「悪くありません。青色そのものではなく、器や盛り付けで涼しさを出せます」

「さすが執事さん!」

先輩メイドの一人が拍手する。

執事さんは少し得意そうに微笑んだ。

「接客で相手の印象を観察するのは得意ですので」

店長さんが目を輝かせた。

「では、そのスープを作ってみて!」

「え?」

「今すぐ!」

執事さんは固まった。

料理メイドが静かに鍋を差し出す。

「どうぞ」

「いや、私は提案をしただけで、調理担当では……」

「料理ができないのですか?」

アルバイトメイドたちの視線が集まる。

執事さんは咳払いをした。

「できないわけではありません」

「以前、ゆで卵を爆発させましたよね」

料理メイドが言う。

「あれは電子レンジとの相性が悪かっただけです」

「フライパンでパンケーキを炭にしたこともあります」

「火力が予想以上だったのです」

「紅茶に塩を入れたことも」

「あれは容器の表示が分かりにくかったんです!」

店内に笑い声が広がった。

執事さんは耳まで赤くしながら腕を組む。

「私は接客担当です。適材適所という言葉があります」

「では、料理は私が組み立てます」

料理メイドは模造紙の横に、新しい紙を置いた。

「三人の印象を、色だけでなく食感や構成で表現しましょう」

料理メイドはまず、青いペンを取った。

「青髪のリーダーは、冷静さと清涼感。ただし、店長さんに圧倒される柔らかさもある」

「圧倒したのは私ね!」

「反省してください」

料理メイドは続けた。

「透明なジュレを使った冷製スープ。中には白い野菜と、青い器に映えるハーブを入れます」

「青い器なら自然ですね」

執事さんがうなずく。

次に料理メイドは紫色のペンを取った。

「紫髪のモデル志望は、スポーティーで鋭い。最初は偏見があったが、気に入ったものは素直に認めた」

店長さんが口を挟む。

「紫芋を山盛りにしましょう!」

「甘味に限定されます」

「紫キャベツ!」

「可能です」

店長さんが勝ち誇った顔をする。

料理メイドは紙に書き込んだ。

「紫キャベツとベリーの酸味を使ったサラダ。見た目は華やかですが、味は引き締めます」

「モード系ですね」

黒髪のアルバイトメイドが言った。

「料理がモード系って、どういう意味?」

別のアルバイトメイドが首をかしげる。

紫色の盛り付け写真を想像しながら、料理メイドは答えた。

「余計な装飾を減らし、形と色の対比を強くするということです」

「それ、紫髪の子が喜びそう!」

アルバイトメイドたちが声を上げた。

最後に、料理メイドは茶色のペンを取った。

「先輩は、メイドカフェ文化を理解していて、三人の中では一番店との距離が近い」

「そして執事さんのファン!」

店長さんが力強く付け加える。

執事さんが困ったように笑う。

「そこはメニューに必要ですか?」

「重要よ!」

店長さんは勢いよく模造紙に、執事服の形をした大きなパンの絵を描いた。

「執事さん型ハンバーグ!」

「なぜ私が焼かれるのですか」

「では、執事さんの顔を描いたオムライス!」

「描くのは誰ですか」

店長さんとアルバイトメイドたちの視線が、執事さんに集まった。

執事さんは首を横に振った。

「無理です」

「接客は得意でしょう?」

「絵を描くことと接客は別です」

料理メイドは少し考えた。

「先輩の要素は、安心感と親しみやすさで表現します。焼きたての小さなパンを添えましょう」

「普通すぎない?」

店長さんが不満そうに言う。

「執事さんが客席で仕上げれば特別になります」

「私が?」

「バターを塗るだけです」

「それならできます」

料理メイドは冷静に続ける。

「ただし、三人分を別々に出すと、コラボとしてまとまりがありません」

店長さんは腕を組んだ。

「一皿にまとめると言ったでしょう?」

「無理に一皿へ詰めると、料理の方向性が崩れます」

「でも、ファッションショーなのよ。華やかさが必要!」

店長さんと料理メイドが向かい合う。

アルバイトメイドたちは二人の間を見比べた。

店長さんの案は大胆で派手だが、料理として成立しにくい。

料理メイドの案は完成度が高いが、少し落ち着きすぎている。

そのとき、執事さんがテーブルの上のファッションショー資料を手に取った。

ページには、ランウェイを歩くモデルたちの配置図が載っている。

「一皿ではなく、一つのコースにしてはどうでしょう」

全員が執事さんを見る。

「コース?」

「はい。ファッションショーでは、一人のモデルだけでなく、何人ものモデルが順番に登場して、全体で一つのテーマを見せます」

執事さんは資料をテーブルに広げた。

「料理も同じように、三つの小さな料理を順番に出します。それぞれの学生モデルを表現しながら、最後に三人が一緒になるような一品を出すんです」

料理メイドの目がわずかに細くなる。

「構成としては理にかなっています」

店長さんも身を乗り出した。

「最後に全員集合ね!」

「そうです。コース全体をランウェイに見立てます」

アルバイトメイドたちが一斉に盛り上がった。

「いいですね!」

「それなら写真も撮りやすい!」

「一品ずつ衣装みたいに見せられる!」

店長さんは模造紙の中央に、大きく新しい題名を書いた。

――真夏のランウェイ・コース!

「決まりね!」

「まだ内容が決まっていません」

料理メイドが言う。

「名前が決まれば半分完成よ!」

「違います」

その後、会議はさらに続いた。

青髪ボブ子ちゃんをイメージした一皿目は、透明感のある冷製スープ。

青いガラスの器に、冬瓜、白いトマト、薄く切ったきゅうり、レモンのジュレを浮かべる。

名前は、

「ブルー・リーダーの涼風ジュレ」

紫髪ウルフちゃんをイメージした二皿目は、紫キャベツ、ビーツ、ブルーベリー、香草を使った小さなサラダ。

黒い皿に直線的に盛り付け、酸味のあるドレッシングで鋭さを出す。

名前は、

「ウルフ・モードの紫彩サラダ」

先輩をイメージした三皿目は、焼きたての小さなパンと、香りのよいハーブバター。

執事さんが客席でパンを割り、バターを添える演出にする。

名前は、

「先輩のお気に入り 執事さんの焼きたてブレッド」

「その名前、恥ずかしくありませんか?」

執事さんが尋ねる。

「ファンは喜ぶわ!」

店長さんが答える。

「先輩本人の許可を取ってください」

料理メイドが釘を刺す。

そして最後の一品。

三人の要素を一つにまとめた、夏野菜の冷製パスタ。

青い器。

紫キャベツとビーツの彩り。

執事さんが客席で仕上げる、レモンとハーブの香り。

中央には、三色の野菜をリボンのように飾る。

料理メイドが完成図を描きながら言った。

「これなら三人の個性がぶつからず、一皿でまとまります」

店長さんが満足そうにうなずく。

「名前は――」

全員が店長さんを見る。

「学生モデルとメイドカフェの、ドキドキ真夏のキラキラお帰りなさいませスペシャル・レインボー・プリンセス冷製パスタ!」

店内が静まり返った。

料理メイドが言う。

「却下です」

「どうして!」

「注文を受ける前に客が疲れます」

「では、略してドキ夏パスタ!」

「意味が分かりません」

アルバイトメイドの一人がおそるおそる手を挙げた。

「『サマーランウェイ・パスタ』はどうですか?」

全員が黙った。

料理メイドがうなずく。

「簡潔です」

執事さんも微笑む。

「ファッションショーとの関係も伝わります」

店長さんは少し悔しそうだったが、最後には大きく丸をつけた。

こうして、メイドカフェ「リリィ」の夏ファッションショー・コラボメニューは決まった。

### 真夏のランウェイ・コース

第一幕
「ブルー・リーダーの涼風ジュレ」

第二幕
「ウルフ・モードの紫彩サラダ」

第三幕
「先輩のお気に入り 執事さんの焼きたてブレッド」

フィナーレ
「サマーランウェイ・パスタ」

料理メイドは試作用の冷製パスタを完成させ、テーブルの中央に置いた。

アルバイトメイドたちが歓声を上げる。

執事さんは慎重にレモンを絞った。

「これくらいなら、私にもできます」

「絞りすぎです」

料理メイドが即座に止めた。

「少ししか絞っていません」

「皿の半分にかかっています」

「あっ」

店長さんは、その様子を見ながら満足そうに笑った。

「完璧ね!」

「どこがですか」

閉店後の店内に、再び笑い声が広がる。

学生モデルたちが知らないところで、夏ファッションショーとのコラボは、すでに料理という形でも動き始めていた。

店長さんは完成した模造紙を、店内で一番目立つ壁に貼った。

その一番下には、赤い文字で大きく書き足されている。

――試食会には学生モデルの皆さんをご招待!

料理メイドが振り返った。

「店長さん。まだ大学へ連絡していません」

「明日の朝、一番にするわ!」

「営業時間前にしてください」

「もちろん!」

その返事を聞きながら、執事さんとアルバイトメイドたちは顔を見合わせた。

また店長さんが、話を大きくしようとしている。

けれど誰も止めなかった。

少しだけ大変で、かなり騒がしくて、それでも面白い夏になりそうだったからだ。

ひとまず<完>

ちちぷいユーザー企画【夏ファッションショー】を開催します。
開催期間
2026/8/3 0:00~2026/8/6 23:59
詳細↓
https://www.chichi-pui.com/events/user-events/d72cfe6b-5da0-4f8e-a9ba-95db041bf672/

呪文

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