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【マタタビ】7.お仕事奮闘中
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その夜、俺がメイドたちの休憩室に入ると、シロは、ラポームに膝枕をされながら寝ていた。慣れない仕事で疲れたのだろう。
「シロさんは、眠ってしまいました」
ラポームは、シロを起こさないように静かに言う。
「すまないな。迷惑をかけて」
俺は、申し訳なく思って謝った。
「いいえ。シロさんは、何にでも一生懸命に取り組んでくれる、とてもいい子ですよ」
ラポームは、シロの髪を優しく撫でながら言う。俺は、その様子をじっと見ていた。
「どうかなさいましたか?」
「……いや、シロに母親がいたら、こんな感じだったのかと思ってな」
ラポームは、驚いた顔をして、そして微笑んで言った。
「私も、ちょうど思っておりました。私に娘がいたら、こんな感じだったのだろうかと。おかしいですよね。シンカロンの子供だなんて……」
そう言って、目を伏せる。
「別に、おかしくはないだろ」
俺は、否定した。シンカロンに生殖能力はないが、シンカロン同士で親子関係を結んだ事例もある。それに、おかしいと言ったら、俺みたいな猫と一緒に旅をしている方が、よっぽどおかしい。
「クロさんとシロさんは、どのようなご関係なのですか?」
ラポームは、興味津々に聞いてきた。
「別に。一緒に旅をしているだけだ」
俺は、素っ気なく答える。
「そうでしょうか? 私には、それ以上に親密な関係のように見えますよ。まるで、家族のように」
「俺とシロが家族……か。俺はともかく、シロはどう思っているんだろうな」
俺は、シロの寝顔を見て呟く。
「シロさんに、お聞きになってみては?」
「今は聞いても意味がないさ。シロは、まだ家族というものが何なのか分かっちゃいないからな」
シロは、俺に拾われる前の記憶がなく、俺に拾われてからもまだ3年しか経っていない。物事を判断できるようになるには、まだ時間がかかるだろう。
「差し出がましいことを申してしまいました。お気を悪くなさらないでください」
ラポームは、頭を下げて謝罪した。そして、シロを起こさないようにゆっくりと抱き上げ、ソファーに移動させる。シロの上にブランケットをかけた後、俺の方を振り返って言った。
「お話しできて楽しかったですわ。私は、そろそろお部屋に戻ります。おやすみなさい、クロさん」
そう言ってラポームはお辞儀をし、電気を消して部屋を出ていく。ラポームの足音が遠ざかった後、俺はシロが眠るソファーに飛び乗った。そして、シロの顔を見つめて呟く。
「シロ。俺は、お前が一緒に旅をしてくれるだけで十分だ」
それから俺は大きな欠伸をして、シロの横で静かに丸くなり、眠りについた。
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(次の話)
【マタタビ】9 メイドカフェの上客
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