張耳と韓信 其四
使用したAI
Dalle
「...本題に戻りたく思いますが、韓将軍に付ける副将の人選についてです。恒山王父子に加えて、曹敬伯(曹参)将軍こそ最適任と愚考します」
陳平は言葉を続けた。
曹参は韓信を別格として、現在の漢軍における最強の将帥と言っていい。彭城の大敗戦を例外とすれば、常勝無敗とすら言っても過言ではない。
官職も将軍職に加えて仮左丞相の地位にあり、大将軍韓信に対して最も対等に近い。
後代、史記において司馬遷は曹参の武勲に対して「韓信のおかげでしかない」的な表現でやや皮肉っぽく懐疑的な見方をしているが、客観的に見て、かつ数字的な記録を見てもこれは公正さに欠ける。
また後世、樊噲が個人的武勇において漢軍最強と目されることが多いが、実際には曹参が最強だった可能性もあり、これは曹参が常に最前線で自ら武勇を振るって戦う型の将だったからである。記録には身に七十以上の傷を負っていたと書き残されているが、常に最前線で自ら武器を奮って戦い続けて尚、生き残り、かつ勝ち続けている時点で尋常な男ではない。
為に、曹参は武勇自慢の味方の将帥たちからも圧倒的な畏敬を集めていた。
...しかし、韓信自身に加えてその「最強」の武将を中原に残る主力から引き抜いて北伐軍に付けるとなると、元々項羽率いる楚の主力を引き付ける戦術的難題を負う漢軍主力にとっても重大な損失である。
その戦術的困難を承知の上で尚、陳平は戦略...というよりも政略的な意味において絶対に必要な人事であると考えていた。
「...確かに曹将軍のお力を加えれば、河北の四か国を降すという困難な任務を負う韓将軍にとっても絶大な助けになるであろうことは間違いありませんが...」
「さすがに我が中原の主力が手薄にはなりませんかな。いくら韓将軍が北伐に成功しても、それも全て我が主力が項羽に対して一定期間持ちこたえる事が大前提です。韓将軍が河北を制圧したとて我が主力が壊滅したのでは本末転倒というものですが」
子房も、その主力軍が負う戦術的難易度が跳ね上がる事に疑義を呈してきた。
「...しかし、それは陳平殿も十分にご承知である筈の事...それでも尚曹将軍を付けるべきと仰る真意は戦術上の理由ではありませんな ? 官職において韓将軍とほぼ同等の曹将軍を北伐に付けたいとお考えになる真意は、恐らく韓将軍の忠誠心に疑義を抱いての対策、韓将軍を掣肘する為の人事...とお見受けしました」
「陳平殿は、韓将軍の漢に対する忠誠心に疑義をお持ちなのですか ?」
...張子房は、韓信の忠誠心に対しては特に疑問を抱いておらぬらしい...実は陳平もその一点だけで言えば同意見なのだが、陳平が抱いている不安は実は韓信の「忠誠心」ではなかった。
「...私は韓将軍とそれほど懇意な訳ではありませんが、かのお人の漢王に対する忠誠心においては、決して疑ってはおりませぬ」
おもむろに陳平は己の真意を語り始めた。陳平としては、この張子房に対してだけは一切の隠し立てをする気は最早ない。
「何と言うべきか...なかなか言葉として表現することに苦労を感じるのですが...一言で申し上げれば私が不安を感じているのは、韓将軍の人の好さ、とでも言うか、あるいは幼さと言ってもいいかもしれません。別な言い方をすれば、韓将軍というお人は私や子房殿のような「悪人」ではない、という事です」
「そして、韓将軍のその人の良さ、幼さ、或いは無邪気さ...にこそ、私は不安を感じているのです。有体に申し上げて、私は韓将軍が私や子房殿のように冷徹に、かつ合理的に計算の出来る「悪党」...「成熟した大人」と言ってもいい...であるならば、寧ろ逆にこのような不安は感じておりません」
張子房は思わず陳平の顔を凝視し、次いで声を上げて哄笑した...実に稀有な事だが。
「いや、失礼...しかし、やはり陳平殿は面白いお方だ。自らを「悪人」と自称なさり、更にはそれを堂々と美徳として誇るお方を私は寡聞にして他に存じませんな。確かに私も決して「善人」等ではない...これは私としては、称賛された...と思って宜しいのですかな ?」
「私は最大級の賛辞を以て、大絶賛しているつもりですが」
陳平は大真面目に、心の底からそう述べた。
陳平は言葉を続けた。
曹参は韓信を別格として、現在の漢軍における最強の将帥と言っていい。彭城の大敗戦を例外とすれば、常勝無敗とすら言っても過言ではない。
官職も将軍職に加えて仮左丞相の地位にあり、大将軍韓信に対して最も対等に近い。
後代、史記において司馬遷は曹参の武勲に対して「韓信のおかげでしかない」的な表現でやや皮肉っぽく懐疑的な見方をしているが、客観的に見て、かつ数字的な記録を見てもこれは公正さに欠ける。
また後世、樊噲が個人的武勇において漢軍最強と目されることが多いが、実際には曹参が最強だった可能性もあり、これは曹参が常に最前線で自ら武勇を振るって戦う型の将だったからである。記録には身に七十以上の傷を負っていたと書き残されているが、常に最前線で自ら武器を奮って戦い続けて尚、生き残り、かつ勝ち続けている時点で尋常な男ではない。
為に、曹参は武勇自慢の味方の将帥たちからも圧倒的な畏敬を集めていた。
...しかし、韓信自身に加えてその「最強」の武将を中原に残る主力から引き抜いて北伐軍に付けるとなると、元々項羽率いる楚の主力を引き付ける戦術的難題を負う漢軍主力にとっても重大な損失である。
その戦術的困難を承知の上で尚、陳平は戦略...というよりも政略的な意味において絶対に必要な人事であると考えていた。
「...確かに曹将軍のお力を加えれば、河北の四か国を降すという困難な任務を負う韓将軍にとっても絶大な助けになるであろうことは間違いありませんが...」
「さすがに我が中原の主力が手薄にはなりませんかな。いくら韓将軍が北伐に成功しても、それも全て我が主力が項羽に対して一定期間持ちこたえる事が大前提です。韓将軍が河北を制圧したとて我が主力が壊滅したのでは本末転倒というものですが」
子房も、その主力軍が負う戦術的難易度が跳ね上がる事に疑義を呈してきた。
「...しかし、それは陳平殿も十分にご承知である筈の事...それでも尚曹将軍を付けるべきと仰る真意は戦術上の理由ではありませんな ? 官職において韓将軍とほぼ同等の曹将軍を北伐に付けたいとお考えになる真意は、恐らく韓将軍の忠誠心に疑義を抱いての対策、韓将軍を掣肘する為の人事...とお見受けしました」
「陳平殿は、韓将軍の漢に対する忠誠心に疑義をお持ちなのですか ?」
...張子房は、韓信の忠誠心に対しては特に疑問を抱いておらぬらしい...実は陳平もその一点だけで言えば同意見なのだが、陳平が抱いている不安は実は韓信の「忠誠心」ではなかった。
「...私は韓将軍とそれほど懇意な訳ではありませんが、かのお人の漢王に対する忠誠心においては、決して疑ってはおりませぬ」
おもむろに陳平は己の真意を語り始めた。陳平としては、この張子房に対してだけは一切の隠し立てをする気は最早ない。
「何と言うべきか...なかなか言葉として表現することに苦労を感じるのですが...一言で申し上げれば私が不安を感じているのは、韓将軍の人の好さ、とでも言うか、あるいは幼さと言ってもいいかもしれません。別な言い方をすれば、韓将軍というお人は私や子房殿のような「悪人」ではない、という事です」
「そして、韓将軍のその人の良さ、幼さ、或いは無邪気さ...にこそ、私は不安を感じているのです。有体に申し上げて、私は韓将軍が私や子房殿のように冷徹に、かつ合理的に計算の出来る「悪党」...「成熟した大人」と言ってもいい...であるならば、寧ろ逆にこのような不安は感じておりません」
張子房は思わず陳平の顔を凝視し、次いで声を上げて哄笑した...実に稀有な事だが。
「いや、失礼...しかし、やはり陳平殿は面白いお方だ。自らを「悪人」と自称なさり、更にはそれを堂々と美徳として誇るお方を私は寡聞にして他に存じませんな。確かに私も決して「善人」等ではない...これは私としては、称賛された...と思って宜しいのですかな ?」
「私は最大級の賛辞を以て、大絶賛しているつもりですが」
陳平は大真面目に、心の底からそう述べた。
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