「少しばかり長い話になる」

トワは話し始めた

「おれとクローエが初めて戦ったあいつな」

「あれは……人の後悔の念の集合体だ」

「あいつを知っている識者からはこう呼ばれている」

「クロノ・レムナント・テンポリファゴス」

「いわば『未来を喰らう者』とでもいう意味だ」

「俺たちが呼ぶ時はただ『ファゴス』と呼んでいるが……」

「一種の精神エネルギーの集合体?」とクローエが聞く

トワは頷いた「もっとも」

「あの特殊なフィールドで物質化してはいるがな」

「ファゴスは 厄介なことに倒しても倒しても何十年かしたらまた生まれてくる」

「それはそうだ 後悔のない人生を送れる人間などそう多くない」

「念の集合体だからその都度姿形は違うが やることは同じだ」

「あの時ああすれば良かった……こうするべきだった……なぜあんなことをしてしまったのか……」

「そんな念が集まった時なにをしようとするか……」

「時の……逆転?」はるかが掠れた声で呟く

トワはまた頷いた

「時を戻そうと試みる……だか、そんなことはできない」

「それは時の破壊を意味する」

「時にも自己修復の機能はある だが彼らの念が積もり積もったとき

万が一にも時の逆転が始まったら」

「時は空間と密接に結びついている」

「時の逆転は時の破壊を生み それは空間の破壊に直結する」

「それは……つまりこの世界が滅ぶというより……無くなるということか?」とクロノアが聞いた

トワは黙って頷いた

「それでもこの世界が今まで保たれてきたのは

人間の中に時を見ることができる能力 時のほころびの影響に毒されない素質

を持った『時の一族』ともいえる者たちがいて その都度 対処してきたからだ」

「それが……」

「そう、それがはるか お前たちの一族だ」

「ただ……時の一族は時のほころびがみえること その悪影響を受けないこと」

「それ以外の特別な能力を持っていない 戦うには向いていない人々だった」

「それでも己を犠牲にすることを厭わない彼らの高潔さゆえに」

「この世界はなんとか均衡を保ってきた」

「だが」

「それも限界が見え始めたとき」

「一人の男が一族の娘と恋に落ちた」

「それが……はるか お前の父親 彼方トキムネだ」

「こいつは偏屈だが天才的な技術者でな 俺も初期のまぁ作品だ」

「お前の母親 みちるは最初自分たちの出自を明かさなかった」

「それが一族の昔からの掟 というより習慣だったからだ」

「だが技術者の観察眼から程なくトキムネは全てを理解する」

「時の一族の現状を知ったトキムネは悩んだ末」

「時の一族に代わって時のほころびを治す存在を作ろうと決意した」

「それがクローエ おまえだ」

「だからおまえは『時のほころび』が見えるし その修理もできる」

クローエの表情にゆっくりと緊張が生まれる

「はるかはトキムネの娘」

「クローエはトキムネのまぁ作品だ」

「生まれた順番から言えば はるかが姉 クローエが妹というわけだ」

「おまえは? おまえもトキムネの作品といったろう?」

「いや、おれは少し年を取っているからな」少し狼狽してトワは答えた

「いわばおれは……そうだな お前らおじのようなものだ」

それまでの静謐な落ち着きを見せていたトワが

急に慌てたのを見て はるかが笑った

それは不思議とクローエの心の歯車をやさしく撫でた

この世界を はるかの笑顔が宿るこの世界を守りたい と クローエは思った

立ち上がりながら言った

「そこまで聞けば十分だ 修理に向かおう」

「へいへい」

「トワちゃん!」

「!……ちゃん?」

「返事は一度だけってお母さんが言ってた」

そのあまりにも無垢な正論に トワは言葉を失った

その様子に 今度はクローエが笑った

おそらく誰も気づいてはいなかったろう

それはクローエの生れてはじめての笑いだった

呪文

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