小説 曇天ディストピア 外伝                『赤と、油と、ハインドと』

使用したAI Gemini
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                                      【 救済は、常に・激辛の・向こう側に。 】



鈍色の雲が低く垂れ込める、いつもの午前。

休暇中の桐狐は、普段の「機械いじり部屋」の喧騒を忘れ、静寂の中にいた

いつもなら、そこには分解された ジャンクパーツの洗浄液の匂いが 満ちているはずだが、今日の空気は少しだけ違う。

彼女の指先が追っているのは、電子回路ではなく、ざらついた「紙」の感触だった。



「アンタ! 戦場と洗浄、そっちのけで何をホットに読んでいるんだい?」

電脳の海から、ニコの野次が飛ぶ。

その声は、相変わらず1,000兆点の火力で脳内を蹂躪するが、桐狐は眉ひとつ動かさない

ただ、美亜から譲り受けたという

『死ぬ前に絶対食べろ! お勧め激辛油そば店』と大書された雑誌を、聖典でも読み解くかのような 真剣な眼差しで見つめていた。



「・・・美亜から、貰った。激辛の精査、してる」

桐狐は無表情のまま、これまた美亜から貰ったという「激辛煎餅」を咀嚼する

バリバリと音を立てるその様子は、端から見れば淡々としているが、電脳リンクを通じてニコに伝わる彼女の感情は、100万ドルの精度で『幸福』の色に染まっていた。



「ニコ、その駄洒落……もう885回聞いた」

「ウーラー! すっかりピンクボブのお嬢ちゃんに懐柔されたな! どうだい、アンタのお眼鏡にかなう店はあったのかい?」

ニコが桐狐の視覚情報をハックし、そのページを特定する。

次の瞬間、電脳空間に狂乱の笑い声が響き渡った。



「ギャハハハハハ! 超お勧め店『れいんぼう』、神奈川県足柄上郡開成町……だとォ!? 最前線じゃねぇか!!」

「 あの 南足柄要塞から 車で6分の場所だぜ、アンタ!要塞勤務の転属願いでも出す気かい!」

「……それも、いいかもしれない」

桐狐の呟きは、いつになく本気だった。

まったりとした休日の風が、彼女のオーバーオールを揺らす。だが、その平穏を切り裂いたのは、遠くから響く「音」だった。



「ヘリのローター音……近い」

桐狐の言葉と同時に、ニコが全演算能力で検索を開始する。

「聖エルザ女学院所属、Mi-24J ハインド改が スクランブル中だぜ! 目的地は――」

報告を待たず、桐狐はヘリポートへ向けて地を蹴った。

リュックの中には、すでに『零=屍鬼』(れい=しき)と予備マガジンが 遠足の弁当のように 用意周到に詰め込まれている。

「アンタ! その用意周到さ……『電脳共感覚』(デジタル・シナスタジア)かい? ……いや、『食いしん坊 万歳』だな!!」



「……救援が最優先。 『激辛油そば』も……最優先」

ニコは、ハインドに乗り込む桐狐の背中に、これまで見たこともないような「高揚感」を感じていた。

救援信号の先には、蹂躪すべき敵と、そして ―― 最高の激辛が待っている。







「南足柄要塞までは10分弱で到着します」

機長席から放たれた声は、死地へ向かう緊張感など微塵も感じさせないほど淡々としていた

機内に響き渡るのは、Mi-24J ハインド改が空気を引き裂く重厚なローター音と、腹の底を揺さぶる双発エンジンの咆哮だ。

通常の軍用ヘリであれば、剥き出しの鉄板と油の臭いに囲まれた殺風景なキャビンを想像するだろう。だが、この機体は違った。



キャビン内には、外部からの電磁干渉を遮断する遮蔽フィールドが展開され、座席には極上の振動吸収シートが採用されている。

各座席の前には戦域情報をリアルタイムで映し出す個別モニターが備わり、壁面には最新の応急処置キット、ナノマシンによる精神安定装置

さらには長距離移動用の折りたたみ式ベッドまでが機能的に配置されていた。



衛生設備も完璧だ。簡易個室トイレに清潔な洗面ユニット

収納棚には個人の特殊装備や、緊急時でも食欲をそそるようにパッケージされた高級非常食が整然と並んでいる。

至れり尽くせり、という言葉がこれほど皮肉に聞こえる場所も他にないだろう。

これから戦場に投入される者たちが放つ、胃を締め付けるような重苦しい沈黙。

そして、それとは対照的な、高性能な空調と浄化システムが作り出す、どこか現実味を欠いた「まったりとした空気」が、狭いキャビンで混ざり合っていた。



「……おい、なんでお前が乗り込んでるんだよ。今回は威力偵察じゃねえんだぞ」

不機嫌そうに吐き捨てたのは、アユと呼ばれた女だった。彼女が纏っているのは、LEM素材から紡ぎ出された特殊繊維による『戦闘用セーラー服』だ。

スタイリッシュな外観とは裏腹に、その防御力は折り紙付きであり

現代の異能者たちが戦場で美しく、かつ効率的に舞うための標準装備——メイド服やバニーガール姿と同様の、残酷なまでの機能美を象徴していた。

アユはセーラーの襟を苛立たしげに正しながら、視線の先にいる少女を睨む。

そこには、そんな最新鋭の異能装束とは無縁の、薄汚れたオーバーオールに身を包んだ少女が静かに座っていた。



「確か貴女……聖エルザの2年生よね。私達、上級生の部隊と連携出来るの?」

隣で膝を小刻みに震わせていたヤマメが、追い詰めたような声で問いかける。

品定めするように少女を見つめるその瞳には、実戦経験の乏しい者が抱く特有の焦燥と、要塞に残してきた誰かを案じる恐怖が滲んでいた。

(……スマンな九尾。二人共、要塞に友人がいるから苛立ってるんだ。私は歓迎するよ♪ 気楽にいこう♪)

キャビンの隅、唯一柔和な笑みを浮かべた上級生の異能者が、軽口混じりで語りかけてくる。

彼女の精神波は鏡面のように凪いでおり、地獄の釜が口を開けて待つ機内において、その余裕は異質なほど不気味だった。



「……よろしく」

少女はぶっきらぼうに応えた。その手にあるのは、戦場へ向かう者が持つべき武器ではない。紙媒体の雑誌——『死ぬ前に絶対食べろ! お勧め激辛油そば店』。

彼女は色褪せた表紙を大切そうに撫でて閉じると、使い込まれたリュックのサイドポケットに、まるで宝物でも仕まうように大切に収納した。

『おいアンタ! 言ってやれよ「足を引っ張るのはお前たちだろ、私の邪魔をするな」って♪』

不敵な笑い声が、電脳リンクを通じて少女の脳内にのみ響き渡る。ニコの声は、高性能な防音壁に守られた機内の誰にも届くことはない。

(ニコ……冗談でもそんな事は言うな。皆、必死に生きようとしてる……ボクとは違うんだ)

『ギャハハハ!! 冗談なんかじゃないぜ! 事実を言ってるだけだけどな♪ 』

『……(検索)この3人の内、アユとヤマメ、異能者としてはランクが低すぎるぜ。下手うつとお陀仏コースだ!』



(南足柄要塞は……そんなに危険な状況?)

『要塞自体は持ちこたえるぜ! だが、戦闘での死傷者の数が1万点か10万点になるかだな!』

『 おっと、今のうちにアンタに広域データリンクと戦域データを同期させてやるぜ!』

ブゥゥゥン……という乾いた電子音。少女の網膜に、赤く明滅する南足柄の戦域マップがオーバーレイされた。

無数に蠢くLEMの群れ。要塞を包囲する絶望的な光景。

(この戦況……ボクにはうってつけだ……)



「まもなく到着! 要塞前方を支援攻撃後、防壁後部に着陸します……支援攻撃、開始!」

バルゥゥゥゥゥ!!!!

ハインド改の機首に据えられた20㎜チェーンガンが火を噴いた。

装填されているのは、対LEM弾 『E』ランク。曳光弾の青白い筋が空を切り裂き、地上に群がるLEMを容赦なく肉片へと変えてゆく。

聖エルザ女学院からスクランブルしたため、機体の武装はこれだけだ。

だが、その暴力的なまでの掃射は、要塞を包囲する黒い波を物理的に抉り取り、一筋の光を地表に投げかけた。



「降機後はCP(コマンドポスト)の指示に従って……うわぁぁぁぁぁ?! 一人、飛び降りちゃいましたよ?!」

副操縦手の悲鳴に近い絶叫が、インカムを突き抜ける。

「なっ?! 今降りたら……LEMの集団の ど真ん中だぞ?! とち狂ったのか、あの娘?!」

操縦席でも混乱が走る。高度80メートル。着陸のために減速を開始した直後のハインドから、文字通り「身を投げた」影があった。

ハッチから飛び出したのは、古びたオーバーオール、背中に重厚なリュックを背負った少女



「……ウソ……嘘だろ?!」

アユの顔から、一気に血の気が引いた。異能者といえど、この高度からの飛び降り、かつ敵陣の真っ只中への突入など、常軌を逸した自殺行為でしかない。

「か、回収は出来ない……わよね……えっ? えっ? えーーーー?!」

ヤマメは半狂乱の声を上げ、ガタガタと機体を掴んで窓の外を見た。遥か下、縮小していく狐の影。



(ふふっ♪ 九尾のおかげで、今回は生き残れそうだ……♪ 還ったら「激辛明太子スナック」を渡さないとね♪)

眼下で爆ぜる肉片の雨の中、重力に逆らうことなく自由落下する少女の瞳には、死への恐怖など一滴も存在しないことを、微笑む上級生だけが知っていた。

そこにあるのは、圧倒的な「個」としての戦力による救援義務、という名の諦念。

そして、この地獄の先に待つ「激辛油そば」という名の、唯一の希望への渇望。



「……行くよ、ニコ」

『ウーラー!! 1,000兆点の火力で店まで突き進め、アンタ!!』

赤い雨が降り注ぐ戦場。

高度八十メートルから叩きつけられる衝撃を、強化された四肢と駆動系で完璧に受け流しながら。

少女はLEMの群れのど真ん中、地獄の特等席へと着弾した。







「……ニコ、着地 2秒前に斉射。橋頭堡を確保する」

高度八十メートルからの自由落下。風を切り裂く轟音の中、桐狐の声だけが 通信回線を通じて、静謐な冷徹さを伴って響いた。

そのアイスブルーの瞳は、地上を埋め尽くす異形——LEM(レム)の蠢く地獄を 冷酷に見据えている。

『ウーーラーー!! 着地と同時に10式(ひとまるしき)「中特改Ⅲ」で一掃? そうだろ、アンタ!?』

オーバーオールに内蔵されたニコの演算コアが、狂気的な歓喜と共に叫ぶ。

桐狐の網膜に、不可視のデータが奔流となって流れ込んだ。



瞬間、世界の色が変わる。

桐狐の五感は物理限界を突破し、第六感……「確定未来」の領域へと接続された。

網膜にはコンマ数秒先に訪れるLEMの攻撃軌道、そして奴らが死に至る「死のライン」が、鮮烈な青い燐光としてオーバーレイされる。

「正解……。戦闘は、ボク一人分のスペースがあれば十分」

空中で身を捩り、桐狐が引き金を引いた。


斉射。


着地予定地点を埋め尽くしていたLEMの群れが、一瞬にして爆ぜた。

緑、青、どす黒い紫——異形の体液と肉片が豪雨となって降り注ぐ中、桐狐は優雅とは言い難い、しかし圧倒的な威容を纏って「地獄の0丁目」へと降り立つ。

「10式『中特改Ⅲ』……。蹂躪の始まりだ」

硬質な金属音が、異形の叫びを切り裂いた。



南足柄要塞の防壁。そこから戦場を俯瞰していた守備隊員たちは、その光景に言葉を失った。

「……おぃ、見ろ! 要塞前方400! 酒匂川の対岸、ガス工場跡地付近に……異能者が降下したぞ!?」

「はぁ!? 見間違いだろ、あんな死地に 誰が好き好んで……本当だ?! マジかよ!?」

冷や汗が隊員たちの頬を伝う。

そこは、異能者ですら 踏み込むのを躊躇う 高濃度汚染区域。



しかし、その地獄の只中で、一人の少女が嵐を巻き起こしていた。

「!!・・・各小隊を 150後退! 戦力を固めろ! 一人でも多く生き残らせるんだ!!」

守備隊長の怒号が響く。彼は双眼鏡越しに、その「青い疾風」を見つめていた。

「聖エルザ女学院のハインド……! ネームドが救援に来てくれたのか! あのアイスブルーの髪……伝令! 『れいんぼう』は営業しているか確認させろ!!」

それは、絶望に支配されていた要塞にとって、唯一の、そして最強の希望の光だった。



LEMの蠢く中心で、アイスブルーの竜巻が乱舞していた。

桐狐の周囲では、物理法則を無視した機動が繰り広げられている。

「ニコ……弾倉交換。次は74式(ななよんしき)『中特改』でいく」

【74式・戦術演算:中特改——128目標同時捕捉】

『了解だぜアンタ! サブアームの操作は任せな! 1万点のジャストタイミングで渡してやるぜ!!』

オーバーオールの背面に隠されたサブアームが、機械的な精密さで動く。

桐狐が使い切った弾倉をパージするのと同時に、予備弾倉が手元に「生えて」くる。


「ん、中特改……!」

突撃してくる数十体のLEM。土石流のごとき異形の群れ。

刹那、桐狐は暴風へと化した。

ババババババババッ!!

銃声が重なり、一つの轟音となる。

桐狐の射撃は「撃つ」という動作を超え、自身の機動を加速させる反動として計算されていた。

薬莢が舞い、肉片が飛び散る。

それは、死を撒き散らすバレリーナ。

決定的に違うのは、その舞踏の後に残るのが、山と積まれたLEMの骸だけだということだ。



『ウーラー!! アンタの【チャンバー内 1発残し】は最高だな!!』

ニコが狂ったように叫ぶ。

撃ち切る直前、薬室に一発を残してリロードする。

再コッキングのタイムラグを コンマ秒単位で削り取る、桐狐の超人的な技量。

「対LEM弾・『E』に変更……。ここの戦域はもう、雑魚しかいない……」



戦場に数十秒の空白が訪れた。

周辺のLEM(異形生命体)を全て始末し、桐狐は 荒い呼吸を整える。

『しかし 要塞にも異能者はいるんだろ? アイツら、防壁から出てこないのかい?』

ニコの問いに、桐狐は遠くの防壁を見つめ、静かに呟いた。

「幸福な家庭はどれも似たもの……だけど、不幸な家庭はいずれも それぞれに不幸なもの……」

『トルストイか、アンタ! 意外と博識だな♪ おっと、空の弾倉は回収してくれよ、資源が乏しいからな!』

「このまま74号線を北上……国道246まで前進する。目標地点は……宮地交差点」



桐狐が駆け出した。100mを2秒——。  (時速180㎞)

もはや人知を超えた速度。しかし、その速度を維持するための エネルギーや 弾薬、そして「兵站」には限界がある。

補給用ドローンも、この汚染濃度では墜落を待つだけの標的だ。

「ニコ……支援砲撃の要請を。場所は……」

桐狐が告げた座標。

それを聞いた瞬間、ニコの演算回路がショートしそうなほどの衝撃に包まれた。

『……ギャハハハハハハハハ!!! アンタ! 着弾地点は自分にしたのかい!? いいね、最高だ!!』

「着弾場所の演算は……ニコに任せる」



死の雨の中に 自らを置き、その隙間で生き残る。

それは、相棒への絶対的な信頼がなければ成立しない、狂気の戦術。

『任せな!! 1万点の精度で、全ての砲弾の軌道&回避を導き出すぜ!!!』

南足柄の空が、要塞から放たれた砲火によって赤く染まろうとしていた。

地獄の0丁目に、さらなる「業火」が降り注ぐ。

桐狐は、その中心へと向かって、ただ静かに、そして速く、駆けていった。







南足柄の空は、絶望の色に染まっていた。

南足柄要塞から放たれた支援砲撃の対LEM弾Eが、容赦なく戦場を蹂躪する。

その猛火の雨を、桐狐は「10式・中特改Ⅲ」の演算を限界まで回し、コンマ数ミリの回避機動で潜り抜けていた。

だが、どんなに鋭利な刃も、研ぎ澄まされた神経も、物理的な「限界」からは逃れられない。


カチッ。


冷酷な乾いた音が、硝煙の中で響いた。

予備弾倉はない。チャンバーに残された最後の一発が、彼女の命を繋ぎ止めている 唯一の糸だった。

四方八方を埋め尽くすLEMの大群。退路はすでに異形の肉壁によって塞がれ、後退はもはや不可能。

「……ここまで、か」


                         giililililililiiiiiiigiilililili !!  giilililililili !!!!  giilililililili giilililililili !!


アイスブルーの瞳に、初めて微かな「終焉」の色彩が混じる。

異形に蹂躪されるか、自らその命を絶つか。

桐狐の指が、引き金へと 伸びかけた、その刹那——。

世界が、白光に切り裂かれた。



ドォォォォォォォン……ッ!!



一瞬遅れて届いた衝撃波が、桐狐の目の前の「絶望」を消し飛ばした。

正確無比。

狙撃という概念を越えた「破壊の柱」が、桐狐を包囲していた LEMの頭部を、胴体を、一列に、寸分の狂いもなく貫いていく。

『ウーーラーー!! アンタ!! 今が後退できるチャンスだぜ! 退路のマッピングは任せな!!』



ニコの叫びが脳内に響く。

瞬時に網膜に映し出される、青く輝く安全な 脱出経路。

だが、ニコの声には 驚愕が混じっていた。

『しかし今の 支援攻撃……狙撃地点が割り出せないぜ!! いったいどれだけの長距離から撃ち抜いたんだ!? 演算不能だぜ!!』



桐狐は、自らの頬をかすめた弾丸の残熱を感じながら、一瞬だけ動きを止めた。

これほどまでの デタラメな精度。

弾道の微細なブレすらも ねじ伏せる、圧倒的な異能の重み。



「……こんな狙撃ができるのは、ボクは一人しか知らない」

桐狐は、静かに、そして何処か救われたような、深い感謝を込めてその名を口にした。

「…………美亜」



その時、西湘PA付近の上空。

南足柄要塞から直線距離にして約14km離れた空を、一機のハインド改が ホバリングしていた。

シャコンッ! ・・・・・ キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ!

愛銃の熱を逃がしながら、美亜はいつもの調子で「わほっ♪」と笑った。

狙撃とは思えない速射。わずか1秒の間に放たれた 23発の弾丸は、山北町の方角へと消え、14km先のターゲットを正確に排除していた。



「こ、小判さん!? 今の射撃、いったい何を……!?」

操縦手の困惑の声も、美亜はぽわぽわとした笑顔ではぐらかす。

「美亜、九尾さんに最近お熱ね~♪」

るか子が クスクスと笑いながら茶化せば、後部座席からは カルネの鋭いツッコミが飛ぶ。

「ウチの激辛煎餅を投資したんや、それなりのキックバックあるんやろな♪」

「Oh! あの Ice Blue の少女デスネ! ワタクシも Very interesting デス♪」

瑞理も興味津々に身を乗り出す。



女子高の昼休み中ではない、旧小田原西ICでの 戦闘を終えた直後の機内

彼女たちは先ほど、南足柄要塞に押し寄せていたLEMの1.5倍を平らげ、次の戦場へと向かっている最中なのだ。

この程度の援護は、彼女たちにとって「ついで」に過ぎない。



「わほっ!? わ、私は るか子ちゃん 一筋だよ!(汗) カルネちゃん♪激辛煎餅以上のペイバックだからね♪ ミズリちゃん、お目が高いね~♪」

美亜は慌てて否定しつつ、窓の向こう、小さく見える南足柄の山影を見つめた。

その瞳には、冗談を言い合ういつもの彼女とは違う、静かな熱が宿っていた。



「……なんかね、昔の私に似てるな~って、思って…………」

「…………そうね♪」

るか子が 短く応える。

それだけで十分だった。

かつて孤独の中にいた自分と、今まさに戦場で孤高を貫く少女。

14kmの距離を越えて繋がったのは、弾道だけではない。

戦場を支配するアイスブルーの疾風と、空を駆ける怪物との 競演は幕を閉じた・・・・・



鉄と血の臭いが、ゆっくりと夜の山北町に溶けていく。

南足柄要塞の防壁を埋め尽くしたLEMの残骸は、冷たい月光を浴びて無機質な岩塊へと変わりつつあった。

一帯は落ち着きを取り戻したが・・・それは、かりそめの安堵にしかすぎない







激辛油そば店『れいんぼう』は客でごった返していた。

それはLEM侵攻の影響で他が閉まっているからではない。むしろ他の店も 元気に営業している。

答えは簡単だ。要塞守備隊の人員が大挙して来店しているのだ。



「防衛には成功したけど、これを食ったら復旧作業にいかねぇとな!」

一人の男が、ガツガツと音を立てて麺を胃袋に流し込む。


「防壁には取り付かれなかったから短時間で済みそうだけど……人的被害はどのくらい出てんだ?」

モリモリと食べ進める男が問えば、隣の席の女が、淡々と事実を口にする。


「死者48名、重軽症者230名……あの大規模の戦闘で、この損害は奇跡ね……」

モグモグと咀嚼しながらも、彼女の眼差しには生き残った者 特有の静かな安堵があった。


「あそこの異能者のネーチャン、凄かったぜ……単身でLEMの大群の……思いだしても震えちまうよ。マジ凄かったぜ」

ズルズルと麺を啜りながら、男は冷や汗を拭った。


桐狐の活躍は要塞基地全員の知る所だが、どうやらTVで生中継もされていたらしく、彼女は今や一躍「時の人」なのである。



注文を終え、待望の『激辛油そば』を待っている桐狐。

周囲の喧騒も、自分に向ける羨望や畏怖の視線も、今の彼女には届かない。

「……この時間、とても楽しい」

冷淡で無表情な彼女から、反比例するような言葉が漏れる。



『ギャハハハハハハハハ!!! アンタ! すっかり有名人になっちまったな♪ ニュースはアンタの話題で持ちきりだぜ!!』

電脳リンクからニコが盛大に茶化すが、当の桐狐は他人事だ。

「この匂い、雰囲気……此処は大当たりだ、ニコ」

『いつになく饒舌だな♪ 大行列でも直ぐに入れて、席はキープされていて特等席!! 英雄に相応しい待遇だな!』



戦闘報告後、桐狐が来店した時には すでに大行列のはずだった。だが、羨望の眼差しで順番を譲られ入店。通された席には『九尾様 予約席』の札が置かれていた。

ニコの 茶化しには無反応だが、彼女の心は今、たった一つに注がれている。



「はいよっ! お待ちどうさま♪ れいんぼう特製! 元祖『激辛油そば』! 超超超大盛とチャーシュー、ネギ増し、煮卵は 私のサービスだよ♪」

店長ミクが、溢れんばかりのトッピングを乗せた器を運んできた。

「味変には特製ラー油を使ってね♪ 飛んじまう超辛ウマだよ!」

己の死に直面した時でも崩れなかった ポーカーフェイスは影を潜め、桐狐の頬が高揚し、アイスブルーの瞳が驚嘆の輝きを帯びる。



「……いただきます」

勢いよく、だが粗雑ではない所作で、彼女は「幸せ」を噛み締める。

(麺が……ボクの口の中で泳ぐ?! コシ・味は完璧。一噛みすれば 激辛の神の祝福、トッピングの聖騎士はそれを引き立てている……)

ズルズル……と、無心で麺を啜る。

(女神イリスの降臨、イザナギとイザナミはこの『激辛油そば』を食べに下界に来たに違いない!!)

ズルズル……。



『アンタ! 表情を見れば感想を聞くまでもないが! ……味はどうだった?』

桐狐は一息つき、唇を紅く染めながら答えた。

「ん……『死ぬ前に絶対食べろ! お勧め激辛油そば店』に……偽りなし」

その後、桐狐は同じものをもう一杯食べ(お客さん達が奢ってくれた)、満面の笑み(無表情)で店を後にした。



 ブロロロロ……。



寄宿舎に戻る途中のジープ。南足柄要塞が貸してくれた車体は、荒れた路面を軽快に跳ねる。ハンドルを握る桐狐が、不意にポツリと呟いた。

「ニコ、神の存在など皆無、無神論者のボクだが……今日、聖典を手に入れた。歓喜の……この気持ちはなんだろうか?」

『アンタ! 色褪せた雑誌だって立派な聖典だ! 空き缶でも祀れば神になるぜ♪ ウーーーラーー!!』

桐狐の幸せがニコにも伝達し、二人は一瞬だが、初めて戦闘時以外のシンクロをした。



「……ハインド改に居た3人の安否が知りたい」

『3人とも生還だぜ! ただ、アユとヤマメは四肢切断——』

『至近でLEMの攻撃を受け手足が吹き飛んだが、命には別条無しだ! アルティメットドクター冴羽にかかれば直ぐに復帰だ♪』

「生きていれば……復讐戦も出来る」



ふと、桐狐は 防衛班 隊長に貰った お土産に思いを馳せる。

『アンタ! 『食いしん坊 万歳』なのに 守備隊長に貰った「激辛こんにゃく」には 手を付けないのかい?』

「それは駄目」

ニコの問いかけに、桐狐の突っ込みが入る。

『ギャハハハハハハハハ!!! 激辛は友情よりも尊いかい?!』

「・・・美亜と 一緒に、食べる」



夜空に輝く満天の星の下、二人を乗せたジープは 寄宿舎へとハンドルを向けた。





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