理久式クリスマス、点火

二つ目のケーキを食べ終え、
紅茶も空になった頃。

理久が、なぜかキッチンから
別の箱を持ってきた。

「……ちなみに、これは私が作った」

桐島が即座に身構える。

「待って。
“作った”って、どの意味で？」

「文字通りだ。
理論上は完璧なクリスマスケーキだぞ」

柚月は箱を見て、静かに嫌な予感を覚えた。

「……ろうそく、立てないでくださいね？」

「大丈夫だ。
装飾工程も計算済みだ」

理久は自信満々だった。

ケーキは見た目だけなら普通だった。
クリーム、スポンジ、苺。
違和感は……ない。

問題は、ろうそくだった。

「じゃあ……せっかくなので」

桐島がマッチを擦る。

シュッ

ろうそくに火が灯った、その瞬間――

ボンッ！！

低く、鈍い爆発音。

ケーキの中心から
白い煙とクリームが噴き上がった。

「うわぁぁぁぁ！！」

桐島が椅子から転げ落ち、
柚月は即座に距離を取る。

テーブルの上には、
原型を失ったケーキの残骸。

沈黙。

理久が煙を見つめながら、冷静に言った。

「……なるほど。
ろうそくの熱が、
内部の気体膨張層を刺激したか」

「入れたんですか！？」
桐島が叫ぶ。

「安定化のためにな。
切るときは問題なかっただろう？」

柚月は静かに一言。

「ろうそく前提じゃない時点で失敗です」

理久は少し考え、
素直にうなずいた。

「確かに。
クリスマス要素を甘く見ていた」

しばらくして、
柚月がキッチンから戻ってくる。

手には、
スーパーちちぷいのケーキの空箱。

「……もう一個、冷蔵庫にあります」

桐島が天を仰いだ。

「最初からそれでいいじゃん……」

理久は白衣の袖についたクリームを見て、
ぽつりと言った。

「次は“非爆発条件”を先に定義しよう」

柚月と桐島は同時に言った。

「次はありません」

こうして、
楓花家のクリスマスは
静かに、しかし一度だけ派手に終わった。