小説 曇天ディストピア 外伝                『威力偵察・激辛油そば・食い倒れ蹂躪紀行』

使用したAI Gemini
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                                      【 荒野は続くよどこまでも 】



錆びついたアスファルトの上を、念入りに整備された軍用ジープが、冷徹なリズムで跳ねる。

セーラーカラーを荒野の風になびかせ、ハンドルを握る九尾 桐狐(きゅうび きりこ)の瞳には、静かな、だが確かな『食欲』という名の熱が宿っていた。

「……ニコ、今日のボクはとても気分が良い。よって、「激辛油そば」食い倒れツアーをしたい。サポートを頼む」

その言葉の裏には、数日前に会話した 「小判 美亜」の無邪気な声が響いていた。

好きなものをとことん食べる。その単純明快な快楽に、今は身を任せたい気分だった。


「ぎゃはははは! アンタ! あのボブピンク髪の言葉に毒されたな! サポートは任せな、最高の『激辛』をナビゲートしてやるぜ!」

ニコの咆哮を背に、ジープはディストピアの瓦礫を蹴散らして進む。威力偵察という任務の仮面を被りながら、彼女の本能は一軒目の目的地へと加速していた。



一軒目、『紅煉獄・支店』


店長のキットは、屍鬼の放つ独特の威圧感に気圧されながら、マグマのように赤黒く煮え立つ丼を、震える手でお淑やかに差し出した。

「お客さま、超激辛10倍です……。よくそんな辛いものが食べられますね。私は作る専門で、辛いのは苦手なんですよ……」

キットの言葉を背中で聞きながら、桐狐は迷わず麺を啜り上げる。

(辛いものが苦手でありながら、この完成された調和。辣油の抽出、麺の締め方……。まさに職人技だ。この店長、ただ者ではないな)

無言のまま、だが脳内では職人への最大限の賛辞を贈りながら、彼女は一気に最初の一杯を平らげた。



二軒目、『熱風亭』


店主のノアは、こだわり抜いた食材の誇りを隠そうともしなかった。

「ウチは混ぜ物無しの『坂井製麺』を使ってるんだ。本物の油そばを 堪能しておくれ。」

「……それと、これは 先月助けてくれたお礼だ。君のような異能者が戦ってくれるから、私たちは商売ができる」

差し出された丼には、大ぶりのチャーシューと煮卵が添えられていた。桐狐はその厚意に、一瞬だけ箸を止める。


(坂井製麺……噂に違わぬコシと麺の旨味だ トッピングも一切の妥協がない。だが、ボクは任務のついでに立ち寄ったに過ぎない。これほどの礼を受ける資格が……)

「難しいことは隅に押し出しときな、アンタ! せっかくの料理に失礼だぜ!」

ニコの鋭い指摘が、彼女の迷いを断ち切る。

そうだ、今はただ、この至高の芸術作品と真摯に向き合うことこそが、異能者としての、そして一人の客としての礼儀なのだ。

彼女は再び、神域の味へと没頭していった。



だが、三軒目『毘沙門亭』への路程は、予期せぬ戦火によって蹂躪される。


幹線道路沿いに突如として姿を現した中型LEM。その巨大な影に追われていたのは、油そば職人のキノと、満身創痍のバイクAI『エメラルド』だった。

「キノ! 私を囮にして逃げろ!」と叫ぶAIに対し、キノは秘伝の調味料を抱え、涙ながらに叫び返す。

「相棒を置いて逃げる職人がどこにいるんだ!」

その光景を目にした瞬間、桐狐の瞳から温度が消えた。



「……『零=屍鬼』オーバーレイド。可及的速やかに害虫を駆逐する。運転は任せるよ、ニコ」

ジープから飛び出した彼女は、一陣の風となって戦場へ。

「その心意気、賞賛に値する。君たちの身柄は、ボクが守る」

屍鬼の覚醒。派手な立ち回りを嫌う彼女が選択したのは、実戦特化の61式『中特』。

一瞬の静寂の後、空気を切り裂くような集中射撃がLEMの外皮を貫く。轟音と共に爆散する害虫。



「……害虫に、明日があると思うな」

硝煙の中で呟く彼女の言葉は冷徹だったが、その胃袋は、守り抜いた秘伝の味を求めて激しく鳴動していた。

「大盛り辛味マシマシ!」

爆炎を背負いながら放たれたその叫びは、どんな勝鬨よりも力強かった。



ようやく辿り着いた『毘沙門亭』で、キノが感謝と共に差し出したのは、文字通り命懸けで守り抜いた至高の一杯。

(……素晴らしい。麺と一体化した強烈な辛味が、全身の感覚を研ぎ澄ましていく。門外不出のレシピ、神を超える職人の魂……感嘆せざるを得ない一杯だ)

(煮卵も素晴らしい・・・これは、心して食べないと・・・!)

「無口なお客さん、エレガントな食べっぷりだね。今日は私の奢りだよ、メギド餃子も食べていって!」



差し出されたマグマ色の餃子を、桐狐は瞬く間に完食する。あまりの速さにニコすら驚愕する中、彼女は二度のおかわりでそっと箸を置いた

まだ食べられた。だが、この店の経済事情を察する彼女の奥ゆかしさが、本能にブレーキをかけさせたのだ。



「……すぐ、また来る」

短く告げ、彼女は翻るように店を後にした。

「ニコ、大至急、寄宿舎へ帰投する。……ボクとしたことが、失念していた」

ジープのエンジンが、今日一番の咆哮を上げる。

「そんなに慌てて、緊急任務か!?」と茶化すニコに対し、桐狐は真剣な眼差しでアクセルを踏み込んだ。

「……寮母さんの手料理を、冷ましたくない」



それは、戦場を生きる彼女にとって、激辛の刺激と同じくらい、あるいはそれ以上に守るべき『日常』の温もりだった。

寄宿舎の扉を開ければ、そこには彼女の好物である麻婆豆腐を用意して待つ、寮母の笑顔があるはずだ。

「……喜ぶ以外の選択肢はない」

夕闇の中、全速力で駆けるジープの助手席で、ニコの笑い声が響く。

「アンタ、最高に『むせる』ぜ♪」

ディストピアの夜は、まだ始まったばかりだった・・・・・



「……アンタ、今日は随分と機嫌がいいな。何かあったのかい?」

電脳の海、ノイズの向こう側からニコが100万ドルの精度で軽口を叩いてきた。

ボクはジープのステアリングを握る指先に力を込め、だが、わずかに口角を上げた。

視界に広がるのは、ひび割れたアスファルトと、遠くに見える煤けた街の輪郭。



「……ニコ、今日のボクには……明確な目的がある」

ボクの答えに、「当ててやろうか?」とニコが1万点の精度でニヤけながら応じる。

そのノイズ混じりの声は、今のボクにはアイスブルーの心地よい旋律(メロディ)として響いていた。



――数日前。

威力偵察の果てに辿り着いた『毘沙門亭』

そこで蹂躪(実食)した地獄のような紅を纏う「メギド餃子」。

あの痺れるような燃焼臭と、脳を突き抜けるアイスブルーの旋律が、今のボクを突き動かしている。



今は戦場の硝煙も、重い強化服のオーバーオールも必要ない。

聖エルザ女学院の黒いセーラー服。オレンジのネッカチーフが、時速100キロで疾走するジープの風に激しく踊る。

休暇(オフ)の目的地は一つ。

ボクの電脳共感覚が、あの暴力的なまでの『熱』を、もう一度再現したがっていた。



「……すぐ、また来る。ボクは、そう決めていたんだ」

ボクは亡き両親のマルチツールをポケットの上から軽く叩き、アクセルを一段と深く踏み込んだ。

アイスブルーの瞳に、今日一番の『統計学的最適解(よろこび)』を宿しながら。



巻き上がる土埃の向こうに、あの汚く、最高に『むせる』暖簾が見えてくる。

錆びついたアスファルトの上を、念入りに整備された軍用ジープが、軽快なリズムで跳ねた・・・・・




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