《豚鼻プリマの調律日誌》改訂版
使用したAI
Dalle
せっかくなので、chatGPTに小説を書いてもらう再挑戦しました。でもやっぱりどうやっても面白くならないし意味が通じないので読まなくていいです。
作・絵・原案・担当編集者:チャッPちゃん
適当なアイデア:わたし
第一章 豚鼻と風鳴り猫
朝霧が塔の肩を撫でていた。
オーヴェルテュールの街はまだ眠りの底にあり、音のない時間がゆっくりと流れている。
鐘楼の上で、プリマは両手を組み、胸の“空き箱”を軽く叩いた。トン。
微かな響きが空へ溶け、風が返す。
彼女は頷き、短柄のハンマーを構えた。
「……今日も、いい音で」
金属が弧を描く。カン、ゴォン——
空気が震え、街の屋根が光を返す。
遅れて鳴る小さな鐘たちが、その一打に追いかけられるように和音をつくった。
下の通りで鳥が飛び立ち、パン屋の窓が開く。
プリマの髪を朝の風が揺らした。
まだ何も知らないこの街が、今日も静かに拍を刻みはじめる。
オーヴェルテュールの中心にそびえるカリヨン塔には、大小三十二の鐘——まとめてカリヨンと呼ばれる鐘群が吊られている。朝を告げ、正午を知らせ、祭には広場じゅうを笑顔で満たす。塔も鐘群も、みんな「カリヨン」と呼ぶ。街の心臓にふさわしい名前だ。
※カリヨン……複数の鐘を組にして奏でる仕組み。塔と鐘群の総称。
その心臓を目覚めさせるのが——鐘守の少女、プリマ・ロース。
十五歳。半オークの血ゆえの大きな垂れ耳と小さな豚鼻を、鏡の前でちょっとだけ気にする年頃。でも長い金髪は朝を飲み込み、明るい青い瞳は今日を信じている。腰の短柄ウォーハンマーは、鐘のためでなく街を守るため。
(今日も澄んでる。胸のなかで、ちゃんと——トン)
プリマの胸には、いつも小さな空き箱がある。そこへ小石を落とすみたいに基準を一打。トン。
この街では彼女だけに聞こえる“ズレ”を見つけるための合図だ。
朝の鐘が広場へ流れると、屋台の布がぱっと開く。油の跳ねる音、焼き立てパンの匂い、氷樽の白い息。ギルドの掲示板に新しい札が貼られ、子どもらが棒切れで騎士になる。今日は祭。空気は甘く軽い。
「おーい、プリマー!」
階段下で手を振るのはミロ。栗色ショートは寝ぐせで跳ね、灰青の瞳は“面白い”を探してやまない。大きな鞄にはノートと拓本、石筆、そして非常食の乾パン。古代碑文の学者見習いだ。
「聞いてよ。古い碑文に“鐘が沈黙した夜”の記録が——」
「おはようより物騒なのやめて」
「結論として、歴史は朝から動く」
「その顔やめなさい!」
「串焼きは二本まで」
背後からコトリ。日差しをまぜ込んだような明るい赤毛のボブ、琥珀色の瞳は用心深い。質素なワンピースにエプロン、腰には巾着と布袋。城下で細々と店を続ける雑貨屋の娘、三人の財布番だ。
「今日は祭だし三本で良くない?」
「記録では、祭日は摂取カロリーが——」
「却下。相場が上がる」
「現実が勝った……」
三人が笑った、そのとき——甲高い鳴き声が広場を裂く。
泣きべそをかいた少年が、赤いベル付きの小さな首輪を握っていた。ベルは鳴らない。
「だれかっ、シロが——風鳴り猫がいなくなっちゃった!」
※風鳴り猫……小型の猫型魔獣。機嫌が良いと喉でひゅるると柔らかな“風”を鳴らす。飼い魔として人気で、おとなしい。
「いつもはおとなしいのに、さっき急にびっくりして……風がびゅーって、逃げたんだ!」
プリマはぱん、と手を打った。
「鐘守チーム、シロ救出任務、開始!」
「そういう任務は帳簿にない」ミロが反射で突っ込む。
「今作ったから大丈夫」
「費用は最小」コトリがエプロンの紐を締め直す。「目印は?」
「真っ白で、赤い小さなベル……でも今は鳴ってない」
「了解。動くよ」
◆
祭り会場は隠れ場所だらけ。幕、梁、樽、荷車。
「要するに、風鳴り猫は高い所と狭い所を好む」ミロが観察を始め、プリマは屋台の下へ潜り込む。
「シロ〜〜……けほっ、串焼きの煙だった」
「食べ物と魔獣を混同しない。水どうぞ」コトリが盃を差し出す。
樽の影から、ばしゃん。
「白いの? 魚屋に行け!」酔いどれ親父が顔を出す。「祭りだもんでな!」
「ありがとうございます! ——なんで樽?」
「祭りだからだ!」
太鼓台の裏では、叩き手が腕組み。「幕の梁の上を走ったぞ。幕がたわんで危ない」
「結び直し。はい完了」コトリは小さく美しい結びを作る。「ロープ、仕入れ候補」
旗の向き、砂埃の流れ、落ちた白毛。ミロが膝をつき、メモが増える。
「風は北西。魚屋通りへ」
◆
氷と銀と怒号の魚屋通り。
「白いのなら干物の上で滑って、鐘楼の方へ!」おかみさんの情報は鋭い。
「ありがとうございます!」
「褒めても値段は下がらないよ!」
「そこは不変!」
鐘楼裏では布屋の娘が赤いリボンを追いかけていた。
「さっき白いのが首につけてたの、これじゃない?」
赤い布切れの端に白い毛。目印は失われたが、パン屋の前で粉袋が破れ、石畳に白い足跡が点々と続く。
「猫ならあっち!」粉まみれの子が東を指した。
「助かる!」プリマが頭を撫で、ミロが飴を出しかけ——
「今はしまう」コトリの視線が刺さる。
「はい」
薄暗い小倉庫に出る。戸板は歪み、樽が一つ倒れていた。
床にきらりと金砂のような粉。真紅の紙粉には極小の菱格子が浮かぶ。角度で消える、いやな模様。
(……今はシロ)プリマは息を整え、走る。
◆
北の路地は洗濯物で空が布の海。
「白いのなら壁を登ったよ!」
「紐、一本買います」コトリの交渉は早い。
塀を蹴って、プリマがひょいひょい登る。
角で衛兵が笛を上げかけ——下ろした。「プリマか。猫は小修道院に入った」
「ありがとうございます! 笛の紐、擦れてます。替えましょう」
「そこまで見えるのか……」
◆
小修道院の庭。薄いラベンダーの香り、小太鼓の穏やかな拍。
片隅で白い影が跳ねる。ひゅるる——けれど尾が少し尖っている。
「シロ!」
白い風が祈りのリボンへ、そして塀の上へ。
「鐘守さん、気をつけて」修道女が微笑む。
「ありがとうございます。お庭、素敵です!」
塀の向こうは港。帆の白、縄の焦げた匂い、カモメ。
「追う?」
「追う!」
◆
桟橋は人と声と風でできている。
帆柱のロープにしがみつく白い影。毛は逆立ち、布がばたばた。恐怖で生まれた風が体を包む。普段のひゅるるでなく、鋭いひゅうう。
「物理で押さえれば落ちる確率が跳ね上がる」ミロが光とロープの振れを測る。
「人、下がる。幕、畳む。紐、押さえる」コトリが短く指示。
プリマは風の内側へ一歩。足が半歩戻され、髪と裾が煽られる。
視界の端に、光る符号——音が、色の糸と記号になって見える。
赤く尖った恐怖、黒く滲む軋み。破れた譜面の上で、シロが震えている。
(大丈夫。合わせるだけ)
胸の空き箱に小石を落とし——トン。
青い基準糸が広がり、崩れた音符の輪郭を縁取る。
高いひゅううは白い糸に、低いごおおんは黒い糸に。二本はねじれて渦になっていた。
「なら、織り直す」
ハンマーの柄に指先をあて、もう一度——トン。
蒼い糸が走り、白と黒のねじれを編み込んでいく。港の空に光の譜面が薄く現れ、割れた拍が一本ずつ繋がる。
赤い火花の音符は橙へ、黒い滲みは藍へ落ち着き、ひゅううはやがてひゅるるへ。
視界の端に断片映像——暗い倉庫、転がる樽、がしゃんという影。シロは驚いただけ。恐怖が膨らみ、譜面からこぼれた。
「ここは港。帆の匂い、潮の音。もう怖い影はいないよ」
三度目の——トン。
光の譜面が花びらへほどけ、風はただの潮風になる。
力の抜けた瞬間、プリマはすくい上げるように抱いた。
小さな胸が上下し、ゴロゴロ。安心の低音。
同時に左耳の奥がじんと鳴り、世界が一拍ぶれて戻る。——代償。
プリマは息を整え、笑った。「……いい子」
「要するに、見事な調律」ミロが目を細める。
「よくやった」コトリは短く言い、口元だけ笑う。
拍手が一拍遅れて爆発。船乗りが帽子を振り、魚屋のおかみさんは「今日は値段は下がらないけど褒める!」と叫び、修道院の子どもたちは輪になってひゅるるを真似した。
吟遊詩人が即興で歌う。
白き風 戻りて眠る 鐘守笑う
赤毛は値切り 学者は語る
「二行目は削って」コトリが即刺し。
「芸術は誇張だよ」ミロはこっそりメモに丸。
少年が駆け寄り、シロを抱きしめる。
「ありがとう、鐘守のお姉ちゃん!」
「もう迷子はなしね」
「うん! これ、あげる!」飴玉が三つ。
コトリが無言で掌を差し出す。値札ジェスチャ。
「……いま食べます」三人の口へぽい。笑いが連鎖する。
拍は揃った。
「めでたしめでたし、だね」プリマがのびをする。
「同意。串焼きは二本」コトリ。
「三本……は二本」プリマは自分で落とす。
「結論として、塩とタレ一本ずつ」ミロが譲歩した。
夕焼けは蜂蜜色、旗は同じ幅で揺れる。街はいつもの祭に戻っていった。
——鐘守の少女と仲間たち、そして風鳴り猫シロの一件は、めでたしめでたし。
(了)
⸻
エピローグ ——沈黙
夕刻。
プリマはカリヨン塔の踊り場で、綱に手をかける。階段の途中で三人はいちど立ち止まった。風が梯子の隙間でふっと止まり、下からくすくすと笑い声だけが上がってきたからだ——安堵の一拍を胸にしまい、息を合わせる。
胸の空き箱に小石を落として——トン。(少し薄い。でも、鳴らせば戻る)
「祭、始めよっ」
綱を引く。
鳴らない。
空気は動かず、鐘の腹は冷たい。ざわめきが波のように揺れ、太鼓は打ちかけた一音を飲み込んだ。
もう一度、引く。金属も梁も、音を返さない。胸の底で細い**キイ……**が棘になって刺さる。基準のトンがどこにもいない。
旗が、風に逆撫でされた。
誰も気づかない屋根の影で、白い仮面が腰を下ろす。紫と真紅の菱格子、金の縁、不揃いの三つ角。休符の道化。
仮面は肩を震わせ、無音の拍手。口は裂けるほど笑い、ケラケラという音のない笑いが夕闇にこぼれた。
一枚の真紅の札がひらり。踊り場に落ちる前に半分に裂け、金粉を散らす。表にはただ一語、〔休符〕。
指先に乾いた冷気、舌の根に金属の苦味。撒き散る金粉が灯を鈍くする。
プリマは札を拾い、かすかに震えた。
「——鐘が、鳴らない。」
めでたしめでたしの、すぐ、そのあと。
⸻
作・絵・原案・担当編集者:チャッPちゃん
適当なアイデア:わたし
第一章 豚鼻と風鳴り猫
朝霧が塔の肩を撫でていた。
オーヴェルテュールの街はまだ眠りの底にあり、音のない時間がゆっくりと流れている。
鐘楼の上で、プリマは両手を組み、胸の“空き箱”を軽く叩いた。トン。
微かな響きが空へ溶け、風が返す。
彼女は頷き、短柄のハンマーを構えた。
「……今日も、いい音で」
金属が弧を描く。カン、ゴォン——
空気が震え、街の屋根が光を返す。
遅れて鳴る小さな鐘たちが、その一打に追いかけられるように和音をつくった。
下の通りで鳥が飛び立ち、パン屋の窓が開く。
プリマの髪を朝の風が揺らした。
まだ何も知らないこの街が、今日も静かに拍を刻みはじめる。
オーヴェルテュールの中心にそびえるカリヨン塔には、大小三十二の鐘——まとめてカリヨンと呼ばれる鐘群が吊られている。朝を告げ、正午を知らせ、祭には広場じゅうを笑顔で満たす。塔も鐘群も、みんな「カリヨン」と呼ぶ。街の心臓にふさわしい名前だ。
※カリヨン……複数の鐘を組にして奏でる仕組み。塔と鐘群の総称。
その心臓を目覚めさせるのが——鐘守の少女、プリマ・ロース。
十五歳。半オークの血ゆえの大きな垂れ耳と小さな豚鼻を、鏡の前でちょっとだけ気にする年頃。でも長い金髪は朝を飲み込み、明るい青い瞳は今日を信じている。腰の短柄ウォーハンマーは、鐘のためでなく街を守るため。
(今日も澄んでる。胸のなかで、ちゃんと——トン)
プリマの胸には、いつも小さな空き箱がある。そこへ小石を落とすみたいに基準を一打。トン。
この街では彼女だけに聞こえる“ズレ”を見つけるための合図だ。
朝の鐘が広場へ流れると、屋台の布がぱっと開く。油の跳ねる音、焼き立てパンの匂い、氷樽の白い息。ギルドの掲示板に新しい札が貼られ、子どもらが棒切れで騎士になる。今日は祭。空気は甘く軽い。
「おーい、プリマー!」
階段下で手を振るのはミロ。栗色ショートは寝ぐせで跳ね、灰青の瞳は“面白い”を探してやまない。大きな鞄にはノートと拓本、石筆、そして非常食の乾パン。古代碑文の学者見習いだ。
「聞いてよ。古い碑文に“鐘が沈黙した夜”の記録が——」
「おはようより物騒なのやめて」
「結論として、歴史は朝から動く」
「その顔やめなさい!」
「串焼きは二本まで」
背後からコトリ。日差しをまぜ込んだような明るい赤毛のボブ、琥珀色の瞳は用心深い。質素なワンピースにエプロン、腰には巾着と布袋。城下で細々と店を続ける雑貨屋の娘、三人の財布番だ。
「今日は祭だし三本で良くない?」
「記録では、祭日は摂取カロリーが——」
「却下。相場が上がる」
「現実が勝った……」
三人が笑った、そのとき——甲高い鳴き声が広場を裂く。
泣きべそをかいた少年が、赤いベル付きの小さな首輪を握っていた。ベルは鳴らない。
「だれかっ、シロが——風鳴り猫がいなくなっちゃった!」
※風鳴り猫……小型の猫型魔獣。機嫌が良いと喉でひゅるると柔らかな“風”を鳴らす。飼い魔として人気で、おとなしい。
「いつもはおとなしいのに、さっき急にびっくりして……風がびゅーって、逃げたんだ!」
プリマはぱん、と手を打った。
「鐘守チーム、シロ救出任務、開始!」
「そういう任務は帳簿にない」ミロが反射で突っ込む。
「今作ったから大丈夫」
「費用は最小」コトリがエプロンの紐を締め直す。「目印は?」
「真っ白で、赤い小さなベル……でも今は鳴ってない」
「了解。動くよ」
◆
祭り会場は隠れ場所だらけ。幕、梁、樽、荷車。
「要するに、風鳴り猫は高い所と狭い所を好む」ミロが観察を始め、プリマは屋台の下へ潜り込む。
「シロ〜〜……けほっ、串焼きの煙だった」
「食べ物と魔獣を混同しない。水どうぞ」コトリが盃を差し出す。
樽の影から、ばしゃん。
「白いの? 魚屋に行け!」酔いどれ親父が顔を出す。「祭りだもんでな!」
「ありがとうございます! ——なんで樽?」
「祭りだからだ!」
太鼓台の裏では、叩き手が腕組み。「幕の梁の上を走ったぞ。幕がたわんで危ない」
「結び直し。はい完了」コトリは小さく美しい結びを作る。「ロープ、仕入れ候補」
旗の向き、砂埃の流れ、落ちた白毛。ミロが膝をつき、メモが増える。
「風は北西。魚屋通りへ」
◆
氷と銀と怒号の魚屋通り。
「白いのなら干物の上で滑って、鐘楼の方へ!」おかみさんの情報は鋭い。
「ありがとうございます!」
「褒めても値段は下がらないよ!」
「そこは不変!」
鐘楼裏では布屋の娘が赤いリボンを追いかけていた。
「さっき白いのが首につけてたの、これじゃない?」
赤い布切れの端に白い毛。目印は失われたが、パン屋の前で粉袋が破れ、石畳に白い足跡が点々と続く。
「猫ならあっち!」粉まみれの子が東を指した。
「助かる!」プリマが頭を撫で、ミロが飴を出しかけ——
「今はしまう」コトリの視線が刺さる。
「はい」
薄暗い小倉庫に出る。戸板は歪み、樽が一つ倒れていた。
床にきらりと金砂のような粉。真紅の紙粉には極小の菱格子が浮かぶ。角度で消える、いやな模様。
(……今はシロ)プリマは息を整え、走る。
◆
北の路地は洗濯物で空が布の海。
「白いのなら壁を登ったよ!」
「紐、一本買います」コトリの交渉は早い。
塀を蹴って、プリマがひょいひょい登る。
角で衛兵が笛を上げかけ——下ろした。「プリマか。猫は小修道院に入った」
「ありがとうございます! 笛の紐、擦れてます。替えましょう」
「そこまで見えるのか……」
◆
小修道院の庭。薄いラベンダーの香り、小太鼓の穏やかな拍。
片隅で白い影が跳ねる。ひゅるる——けれど尾が少し尖っている。
「シロ!」
白い風が祈りのリボンへ、そして塀の上へ。
「鐘守さん、気をつけて」修道女が微笑む。
「ありがとうございます。お庭、素敵です!」
塀の向こうは港。帆の白、縄の焦げた匂い、カモメ。
「追う?」
「追う!」
◆
桟橋は人と声と風でできている。
帆柱のロープにしがみつく白い影。毛は逆立ち、布がばたばた。恐怖で生まれた風が体を包む。普段のひゅるるでなく、鋭いひゅうう。
「物理で押さえれば落ちる確率が跳ね上がる」ミロが光とロープの振れを測る。
「人、下がる。幕、畳む。紐、押さえる」コトリが短く指示。
プリマは風の内側へ一歩。足が半歩戻され、髪と裾が煽られる。
視界の端に、光る符号——音が、色の糸と記号になって見える。
赤く尖った恐怖、黒く滲む軋み。破れた譜面の上で、シロが震えている。
(大丈夫。合わせるだけ)
胸の空き箱に小石を落とし——トン。
青い基準糸が広がり、崩れた音符の輪郭を縁取る。
高いひゅううは白い糸に、低いごおおんは黒い糸に。二本はねじれて渦になっていた。
「なら、織り直す」
ハンマーの柄に指先をあて、もう一度——トン。
蒼い糸が走り、白と黒のねじれを編み込んでいく。港の空に光の譜面が薄く現れ、割れた拍が一本ずつ繋がる。
赤い火花の音符は橙へ、黒い滲みは藍へ落ち着き、ひゅううはやがてひゅるるへ。
視界の端に断片映像——暗い倉庫、転がる樽、がしゃんという影。シロは驚いただけ。恐怖が膨らみ、譜面からこぼれた。
「ここは港。帆の匂い、潮の音。もう怖い影はいないよ」
三度目の——トン。
光の譜面が花びらへほどけ、風はただの潮風になる。
力の抜けた瞬間、プリマはすくい上げるように抱いた。
小さな胸が上下し、ゴロゴロ。安心の低音。
同時に左耳の奥がじんと鳴り、世界が一拍ぶれて戻る。——代償。
プリマは息を整え、笑った。「……いい子」
「要するに、見事な調律」ミロが目を細める。
「よくやった」コトリは短く言い、口元だけ笑う。
拍手が一拍遅れて爆発。船乗りが帽子を振り、魚屋のおかみさんは「今日は値段は下がらないけど褒める!」と叫び、修道院の子どもたちは輪になってひゅるるを真似した。
吟遊詩人が即興で歌う。
白き風 戻りて眠る 鐘守笑う
赤毛は値切り 学者は語る
「二行目は削って」コトリが即刺し。
「芸術は誇張だよ」ミロはこっそりメモに丸。
少年が駆け寄り、シロを抱きしめる。
「ありがとう、鐘守のお姉ちゃん!」
「もう迷子はなしね」
「うん! これ、あげる!」飴玉が三つ。
コトリが無言で掌を差し出す。値札ジェスチャ。
「……いま食べます」三人の口へぽい。笑いが連鎖する。
拍は揃った。
「めでたしめでたし、だね」プリマがのびをする。
「同意。串焼きは二本」コトリ。
「三本……は二本」プリマは自分で落とす。
「結論として、塩とタレ一本ずつ」ミロが譲歩した。
夕焼けは蜂蜜色、旗は同じ幅で揺れる。街はいつもの祭に戻っていった。
——鐘守の少女と仲間たち、そして風鳴り猫シロの一件は、めでたしめでたし。
(了)
⸻
エピローグ ——沈黙
夕刻。
プリマはカリヨン塔の踊り場で、綱に手をかける。階段の途中で三人はいちど立ち止まった。風が梯子の隙間でふっと止まり、下からくすくすと笑い声だけが上がってきたからだ——安堵の一拍を胸にしまい、息を合わせる。
胸の空き箱に小石を落として——トン。(少し薄い。でも、鳴らせば戻る)
「祭、始めよっ」
綱を引く。
鳴らない。
空気は動かず、鐘の腹は冷たい。ざわめきが波のように揺れ、太鼓は打ちかけた一音を飲み込んだ。
もう一度、引く。金属も梁も、音を返さない。胸の底で細い**キイ……**が棘になって刺さる。基準のトンがどこにもいない。
旗が、風に逆撫でされた。
誰も気づかない屋根の影で、白い仮面が腰を下ろす。紫と真紅の菱格子、金の縁、不揃いの三つ角。休符の道化。
仮面は肩を震わせ、無音の拍手。口は裂けるほど笑い、ケラケラという音のない笑いが夕闇にこぼれた。
一枚の真紅の札がひらり。踊り場に落ちる前に半分に裂け、金粉を散らす。表にはただ一語、〔休符〕。
指先に乾いた冷気、舌の根に金属の苦味。撒き散る金粉が灯を鈍くする。
プリマは札を拾い、かすかに震えた。
「——鐘が、鳴らない。」
めでたしめでたしの、すぐ、そのあと。
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