【マタタビ】2.コンペイトウ

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(前の話)
【マタタビ】1.ニューオオスの街並み
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 だが、そう簡単にはいかなかった。いくつかの店で店員から情報を得ようとしたが、買い物客ではないと分かると、嫌そうな顔で追い返された。世間話すらままならず、ましてや“星の樹”なんていう噂話を持ちかけたところで、怪訝な顔をされるだけだった。俺が、頭を悩ませていると、シロが目を輝かせながら、屋台の一つを指さした。

「見て、あそこのお店」

 そこには、色とりどりの星の形をした商品が並べられていた。

「あれ、“星の樹”に実った星かも」
 
 シロは、店に近づいて、並んだ商品を覗き込む。店の看板を見ると、“コンペイトウ”と書かれていた。

「コンペイトウとは、何だ?」
 
 俺は、店の主人に聞いた。

「うおっ、猫が喋った!」
 
 店の主人は、驚いてのけ反った。俺は、人間たちから毎回同じ反応をされるのに慣れてはいたが、毎回同じ説明をするのは面倒だ。

「猫型ロボットだ」
 
 俺は、端的に説明し、話を進める。店の主人の説明によると、コンペイトウというのは、日本に古くからある砂糖菓子のことらしい。コンペイトウをじっと見ていたシロに、店の主人が声をかける。

「お嬢ちゃん、味見してみるかい?」

 そう言って、コンペイトウをひとつまみ、差し出してきた。

「いいの?」
 
 シロは、受け取って口に入れる。

「美味しい」

 シロは、驚いて声を上げた。よほど美味しかったのか、舌の上で転がしながら、味わって食べている。その様子を見ながら店の主人は言った。

「気に入ったなら、買っていってくれよ」
「うん」
「ちょっと待て」

 即答するシロを、俺は制止する。

「無駄遣いをするな。俺たちは、観光に来たんじゃない。“星の樹”の情報を得るために、ここに来たんだろ?」
「“星の樹”だって?」
 
 店の主人が反応した。

「おじさん、何か知ってるの?」

 シロは、期待した眼差しで店の主人を見つめる。

「ああ、どこかで聞いたことがあるような……。お嬢ちゃんがうちの商品を買ってくれたら、何か思い出すかもよ」
「本当? じゃあ……」

 そう言って、シロは財布を取り出す。

「待て待て! どう考えても胡散臭いだろう!」

 俺は、再びシロを制止する。

「でも、私たちは“星の樹”の情報を得るために、ここに来たんでしょう?」
「それは、そうだが……」

 俺は、先ほどシロを諭した言葉をそのまま返され、返事に困る。

「おじさんが思い出してくれるなら、それでいいじゃない」

 シロはそう言って、コンペイトウを次々と袋に詰める。こいつは本気で言っているのか、それともコンペイトウが食べたいだけなのか。おそらく前者なのが、たちが悪い。仕方がない。騙されることも人生経験の一つだ。おやつ程度のお金で、シロが学べたと思えば、安いものだ。

「全部で1万円だ! まいどあり!」 
「高いな!」

 俺は、思わず声を上げた。高々砂糖菓子だろう。それを一体どれだけ買ったんだ。

「ありがとう、おじさん。何か思い出せた?」
「いや、何も……」

 それ見たことか。お前は、騙された上に、ぼったくられたのだ。結局、俺たちはコンペイトウを山ほど手に入れただけで、得られた情報は何も無い。俺が呆れ返っていると、店の主人が頭を掻きながら話しかけてきた。

「お嬢ちゃん。悪いが、あんたが言う“星の樹”について、俺は何も知らないんだ」

 さすがにこの男も、シロのあまりの疑わなさに罪悪感を覚えたのだろう。それを聞いたシロは、騙されたという顔をして「騙された!」と言った。これは、騙されたお前が悪い。

「まぁ、そう言うなよ。お嬢ちゃんが沢山商品を買ってくれたお礼に、一ついいことを教えてやるよ」

 店の主人は、苦笑いをしながら、大通りの奥の方角を指さした。

「この大通りを真っ直ぐ進んで、ニューオオスの中心部にある、“ポームム”という店に行ってみな」
「ぽーむむ?」

 シロの頭には疑問符しか浮かんでいないので、俺がしっかり話を聞く。

「そこに行けば、“星の樹”について、何か分かるのか?」
「ああ、おそらく。なにせニューオオスの中でも、一番情報が集まる店だからな」

(次の話)
【マタタビ】3.メイドカフェ“ポームム”
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