ミクの学習記録

・『学習型ボーカロイド』なるものを買った。プリセットされた人格と歌唱スタイルのある一般的なモデルと違って性格も歌い方も自分で学習して変化していくそうだ。随分不愛想な奴だと思ったらまだ人格メモリがまっさらな状態らしい。歌も譜面に正確ではあるが抑揚に乏しく、人間のような自然な歌い方には程遠い。これからは仕事の時以外は家でも外でも出来るだけ一緒にいて色々な経験を積ませよう。歌も出来るだけ色々なジャンルを、可能ならコンサートに連れて行ってプロの生歌を聞かせてやろうと思う。
・ミクが来てから1週間が過ぎた。歌は相変わらず自動演奏のように正確無比かつ何の感情も籠もっていないし、日常の動作も機械的でぎこちない。機械的…そう、彼女は機械なのだ。見た目は人間そっくりでも中身はコンピュータと機械部品の塊だ。動いたり話したり出来るといってもそれは与えられたプログラムに従って人間の真似をしているに過ぎない。だから彼女の言葉や動作には不自然さが付き纏う。…ミクがこれからどう変わっていくかはマスターである自分次第だ。
・ミクが来て半年、この頃は譜面と歌詞を見て考え込むことが多くなった。行間から作家や登場人物の心情を読み取って歌に反映させようとしているらしい。他者の感情を気にするのはミク自身の感情が、自我が成長しているからに他ならない。自我の成長は歌唱だけでなく普段の行動にも影響を与えていて、彼女の動作からは機械然とした不自然さが薄れつつある。どうやら与えられた動作プログラムではなく彼女自身のメモリに基づいた新たな動作パターンが構築されつつあるらしい。
・ミクが来て1年余りが過ぎた。彼女の動きや表情からはかつてのような機械的なぎごちなさは感じられず、歌声に譜面に無い揺らぎを与えながら一音一音に情感を込めて歌う姿は人間そのものだ。そう、人間という言葉が生物学的な肉体ではなく人格を現すのなら、彼女は紛れもなく人間だ。最近彼女からマスターである自分に対する明確な好意を感じることがあるが、機械は恋などという不確かな感情は抱かない。だが人間なら恋をするのは自由だし、その想いに応えるのも自由じゃないか？



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THEビッグオーを見てたらこんな話が出来てしまいました。