本日のランチ

食彩探訪

12月21日｜香ばしさは、味噌が焼ける音から始まる
鶏もも肉の西京味噌焼き定食
文・田嶋

冬の昼は、ふと香りに救われることがある。扉を開けた瞬間、鼻先をくすぐる甘い焦げ香——西京味噌が焼ける匂いだ。昨日の鱈と白菜の白だしあんかけが「静かな旨味」なら、今日はまぎれもなく「香ばしさが主役」。期待は、焼き台の前で確信に変わった。
運ばれてきた鶏もも肉は、まず艶がいい。味噌の照りが表面に薄い膜をつくり、ところどころに焦げ目が走る。その焦げが、苦みではなく甘みを連れてくるのが西京味噌の面白さだ。箸で持ち上げると、皮目は軽く張り、身はふっくら。噛んだ瞬間、じゅわりと脂が溶け、味噌の甘みと鶏の旨味が一拍遅れて追いかけてくる。
味噌だれは濃すぎず、塩味が先に立たない。甘みの奥に麹の香りがあり、焼けた香ばしさが全体を引き締める。白米との相性は説明不要だが、あえて言うなら「一口で景色が変わる」。焼き目の香りが米の甘みを押し上げ、次の箸が自然と伸びる。これは“ご飯が進む”ではなく、“ご飯が必要になる”料理である。
小鉢は青菜のあっさりとした口直しが心地よい。濃厚な主菜を受け止めつつ、油や甘みをさらりと流してくれる。味噌汁を挟めば、舌の温度が整い、また香ばしさへ戻りたくなる。定食の構成として、主役を立てるための脇役がきちんと仕事をしている。
取材で見た厨房の景色も忘れがたい。味噌を塗った鶏を焼き台に乗せる手つきは迷いがなく、焼き色を見ながら火を当てる時間の取り方が丁寧だった。焦がしすぎない、しかし香りは最大に——この絶妙な落としどころが、皿の上にそのまま現れている。
冬の食事は、温度と香りで記憶に残る。今日の西京焼きは、その両方を持っていた。派手ではないのに、食後の余韻が長い。香ばしさとは、満足の輪郭をはっきりさせる魔法なのだ。

次回予告
次回は、香ばしさの延長線上で**“揚げ”の魅力**へ。
外はカリッと、中はふわり——冬の定食に欠かせない一皿を追います。

焼ける香りに誘われて席に着き、焦げ目の甘さに頷く。
今日の一膳は、冬の昼に必要な「元気」をきちんとくれた。