彼岸花の園

あの人が憎かった。本当に殺してしまいたいほどに。
そして、私は実行してしまった。
電車がホームに入ってくる直前にあの人の背中を押した。
あの人はホームから転落した。そのまま、後ろを見ずに駅から逃げ出した。
私が人をホームから突き落としたのは、防犯カメラにしっかりと映っているだろう。
言い逃れはできないこそ、速攻で駅から逃げたのだ。

気が付くと、私は花の中にいた。この花には見覚えがある、彼岸花だ。
彼岸花の別名には、リコリス、死人花、地獄花とも言われ不吉な花と言われる。
周りは彼岸花の園だった。犯罪を犯した自分に相応しいと思って笑った。
私はその場に倒れ込んだ。そのまま意識を失った。

++++至急至急、本部から周辺パトカーに被疑者とみられる若い女性について通達++++
飯浜線飯浜駅のホームにて男性が線路に転落、しかし男性は自力でホーム下の退避場所に逃げ込み打撲のみで無事と判明
電車の来る時間でないのも幸いした。
男性は若い女性にいきなり後ろから押されて線路に転落、周りの乗客数名も近くでこれを目撃している。
重要被疑者として、黒っぽいセーラー服を着用した少女を捜索の旨、通達する。
++++本部から詳細については、追って通達する、オワリ++++

後日、防犯カメラには男性と周りの乗客の姿はあったが、少女の姿はなかった。
男性は確かに誰かに押されたと証言し、まわりの乗客も男性を押した少女を目撃したが、近距離であるにも関わらず誰一人として顔を覚えていなかった。
黒いセーラー服と長い黒髪としか証言はなく、何台もある防犯カメラの中のすべてにその姿はなかった。
結局、男性が眩暈をおこしてホームから転落との事故案件報告として警察のデータに残ることとなる。
問題は同様の事件がその後に数件発生するが、重要被疑者の姿は防犯カメラには一切記録されていないと言うことである。