午前0時10分の観察記録

使用したAI その他
午前0時10分の女

東京都内にある東雲大学・生命環境学部には、動物行動学を専門とする榊原恒一教授の研究室がある。

榊原研究室では、大学から車で三時間ほど離れた山間部、奥月山調査区に自動撮影カメラを設置し、野生動物の夜間行動を調査していた。

ニホンジカ、タヌキ、キツネ、イノシシ。

人間が眠っている時間、山の中で彼らがどのように行動しているのか。

赤外線センサーが動きを検知すると、カメラは自動的に録画を開始する。

その映像の中に、最初の「女」が現れたのは、10月17日のことだった。

大学院生の三浦恒一が、回収したSDカードの映像を研究室で整理していた。

時刻は、

午前0時10分。

画面には、真っ暗な山道が映っている。

しばらくすると、画面の奥から人影が現れた。

女子高校生だった。

紺色の制服。

白い靴下。

黒いローファー。

肩に通学用のバッグを掛けている。

こんな時間に、こんな場所を歩いていること自体がおかしい。

だが、もっと奇妙なのは、その歩き方だった。

急いでもいない。

怯えてもいない。

周囲を見回すことすらしない。

まるで毎日歩いている通学路を歩くように、無表情のまま山道を進んでいる。

そして画面の奥へ消えた。

三浦は映像を止めた。

「……なんだ、これ」

翌朝、榊原教授に見せると、教授はしばらく黙って映像を見ていた。

「近隣の高校生かもしれないな。警察に行方不明者の情報がないか確認しておこう」

ところが、翌日のデータを確認していた三浦は、再び手を止めた。

午前0時10分。

別のカメラだった。

今度は、スーツ姿の女性が歩いている。

三十代くらい。

黒いパンツスーツにパンプス。

片手にはビジネスバッグ。

やはり、無表情。

そしてやはり、山道をまっすぐ歩いている。

「教授……」

三浦が呼びかける。

榊原教授は画面を見て、眉をひそめた。

さらに翌日。

午前0時10分。

今度は、エプロン姿の主婦らしき女性。

買い物袋を片手に持っている。

その翌日は、

キャビンアテンダント。

紺色の制服。

スカーフ。

キャリーケース。

午前0時10分。

山の中。

ひとり。

無表情。

研究室の誰も笑わなくなった。

四人の女性は、それぞれ違う場所のカメラに映っていた。

服装も違う。

年齢も違う。

だが、共通点があった。

全員が、

午前0時10分に現れる。

そして、全員が、

山の奥へ向かって歩いていく。

榊原教授は、過去の映像をすべて調べるよう指示した。

すると奇妙なことが分かった。

女性が現れる直前。

必ず動物が一匹、カメラの前を横切っている。

鹿。

狐。

狸。

イノシシ。

ところが女性が画面に入った瞬間、動物は一匹も現れなくなる。

女性が去ってから数分すると、また動物が戻ってくる。

まるで、

動物たちが女性を避けている。

榊原教授は、映像を一コマずつ確認した。

そして、あることに気づいた。

「三浦君。この四人……顔を見てくれ」

映像を拡大する。

女子高校生。

スーツの女性。

主婦。

キャビンアテンダント。

三浦は四つの映像を並べた。

「……同じですね」

顔が同じだった。

目。

鼻。

口。

輪郭。

四人とも、まったく同じ顔をしていた。

「服装だけが違う」

榊原教授はそう言って、映像を保存した。

その日の午後、教授は研究室の全員に告げた。

「この件は、大学の調査対象から外す」

カメラを撤去することになった。

翌週、研究室のメンバーが奥月山へ向かった。

すべてのカメラを回収するためだった。

最後に残ったのは、標高800メートル付近に設置された一台だった。

カメラを回収した三浦は、帰りの車の中でSDカードを確認した。

最後の映像。

撮影日時は、

10月24日 午前0時10分。

画面には、いつもの山道。

やがて人影が現れた。

今度の女性は、これまでとは違っていた。

制服でもない。

スーツでもない。

主婦でもない。

キャビンアテンダントでもない。

白い病院着を着た女性だった。

裸足だった。

女性はゆっくり歩いてくる。

そしてカメラの真正面で立ち止まった。

初めてだった。

これまでの女たちは、一度もカメラを見なかった。

しかし、その女は違った。

顔を上げた。

赤外線カメラのレンズを、じっと見つめている。

三浦は映像を一時停止した。

「……教授」

榊原教授も画面を見る。

「どうした?」

「この人……」

三浦が指を震わせながら画面を指した。

女性の顔。

そこには、四人の女性と同じ顔があった。

しかし、その顔には初めて表情があった。

ほんの少しだけ、

笑っていた。

三浦が映像を再生する。

女性の唇が動いた。

音声は録音されていない。

それでも、二人には何と言ったのか分かった気がした。

「……次は、あなた」

映像はそこで終わった。

車内が静まり返った。

榊原教授は、何も言わなかった。

その夜。

三浦は自宅に戻った。

時計を見る。

午前0時05分。

テレビを消し、ベッドに入った。

午前0時10分。

スマートフォンが震えた。

大学の研究室からメールが届いていた。

件名は、

「奥月山調査カメラ・追加映像について」

添付ファイルが一つ。

三浦は恐る恐る開いた。

映像には、見覚えのある場所が映っていた。

山ではない。

東雲大学の生命環境学部。

研究室の廊下だった。

午前0時10分。

廊下の奥から、ひとりの女性が歩いてくる。

白い病院着。

裸足。

無表情。

そして、研究室のドアの前で立ち止まる。

カメラのほうを向く。

その顔を見て、三浦は息を呑んだ。

それは、

自分の顔だった。

翌朝。

榊原教授は、三浦に電話をかけた。

しかし、電話はつながらなかった。

教授は研究室へ向かった。

三浦の机の上には、昨夜の映像を表示したままのパソコンが置かれていた。

画面には最後のフレームが映っている。

午前0時10分。

研究室の廊下。

誰もいない。

ただし、画面の隅に小さく人影が映っていた。

榊原教授は、それを見つけた。

人影は一人ではなかった。

二人。

三人。

四人。

制服姿。

スーツ姿。

主婦。

キャビンアテンダント。

そして、その後ろに――

白い病院着の女。

五人全員が、同じ方向を向いている。

カメラではなく、

画面のこちら側を見ていた。

映像の撮影時刻は、

午前0時10分。

その日から東雲大学では、奥月山の動物観察研究を完全に中止した。

カメラもすべて撤去された。

ただし、研究室では今でも一つだけ説明できない記録が残っている。

奥月山のカメラが最後に撮影した映像。

その映像には、確かに「五人目の女」が映っている。

ところが映像ファイルのメタデータを調べると、

そのカメラは、最後の映像を撮影する三日前に撤去されていた。

呪文

入力なし

ねこ4さんの他の作品

ねこ4さんの他の作品


新着AIフォト

すべてを見る