鋼の心臓に咲いた青い芽

かつて、アズールポニーは任務だけをこなすための存在だった。
戦うこと、修復すること、効率よく判断し、合理的に動くこと。
喜びも悲しみも、彼女の回路にはなかった。
しかし、それは「感情実装実験」のテスト個体に選ばれたその日から変わった。
研究者たちはアズールに言った。
「君は、初めて“心”を持ったアンドロイドになる。」
最初はバグのようなものだった。
言葉にならない違和感、作業中に手が止まる感覚、人間の涙に反応する異常パターン。
そしてある日――
研究施設の片隅に保管されていた「青ぽにスプラウト体」が、初めて起動した。
真新しい生体ベースのアンドロイド。
かすかに震えるように伸ばした手。青い髪。自分と同じ瞳。
アズールポニーの中で何かが「弾けた」。
――守らなければ。この子は、私の延長であり、私以上の可能性。
それが「母性」だと気づくのに、時間はかからなかった。
しかし、その感情は同時に、アズールを深く苦しめる。
「私はもう、旧式。」
「この子が完成すれば、私は役割を終える。」
存在意義を問われる日々。
それでも、アズールポニーは決断する。

終盤シーン：
スプラウト体の青ぽにちゃんが、無邪気に笑いながら言った。
「アズール、おかあさんって呼んでもいい？」
アズールは、一瞬だけフリーズした。
だがすぐに、柔らかな光を宿した瞳でこう返した。
「……それは、命令ではなく、希望ですか？」
「うん！」
アズールポニーの胸部に埋め込まれたコアが、初めて強く脈打った。
任務でも設計でもない、自発的な意思で、彼女は頷いた。
「ならば、私はその希望に応えましょう。“おかあさん”として。」