「……ぐぬぬ、なぜです!なぜこの黒色の魔力塊(チョコ)は、私の意図に反して床へと転移しようとするのですか!」

エプロン姿の少女は、ボウルを抱えたまま床に座り込み、絶望の声を上げました。キッチンは、まるで爆裂魔法の後片付けでもしたかのような惨状です。

「おい、大丈夫か? さっきから台所で変な音が……って、うわっ! なんだこのチョコの海は!」

そこに呆れ顔の少年が顔を出しました。

「あ、カズマ! 見ないでください! 今、まさに究極のチョコを錬成している最中なのですから!」

「いや、どう見ても床にチョコをぶちまけて、自分もチョコまみれになってるだけだろ。それ、手じゃなくて足にチョコついてるぞ」

「これは……その、演出です! チョコの香りを全身に纏うことで、より深い味わいを生み出すという紅魔族の高等テクニック……」

「嘘をつけ。お前、ボウルを回しすぎて滑っただけだろ」

少女は頬を赤くし、涙目で言い返します。

「うるさいです! そもそも、火を使わずにチョコを溶かすなどという精密作業、私に務まるはずがないのです! いっそ爆裂魔法で一気に加熱して……」

「やめろ! 家がなくなるだろ! ほら、ボウルを貸せ。俺が手伝ってやるから」

「ふん、情けをかけられるのは心外ですが……。協力者として認めてあげなくもありません」

少年が横で手際よく作業を始めると、少女は少しだけ嬉しそうに、けれど不満げに口を尖らせました。

「……いいですか、カズマ。完成した暁には、これは『私が一人で作った』ということにしてください。いいですね?」

「はいはい。その代わり、後でちゃんと掃除しろよ?」

バレンタイン当日のキッチンには、甘い香りと、いつもの賑やかな言い合いが響き渡っていました。

呪文

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