(前の話)
【マタタビ】28.ニューナゴヤの守護者
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神格との戦いは数時間に及んだ。戦いは激しく、神格の力は計り知れなかったが、メイドや旅人、黄昏梟、越夜隊たち連合軍の総攻撃に押され、次第に神格の動きが鈍くなっていった。
「もう一押しです! お嬢様、まだ戦えますか?」
シルエラは、モーニングスターを握りしめ、シロを振り返る。
「……はい」
シロは、そう返事をしたが、明らかに疲弊していた。地面の上で四つん這いになり、立ち上がる力も残っていないように見える。
「このままでは、私たちの体も保ちませんね……。次の攻撃でこの戦いを終わらせましょう」
そう言って、シルエラは上空に浮かぶ神格を見つめる。
「でも、どうやって? 私の攻撃はもう届かないよ……」
シロが弱気になるのも無理もない。神格は、なお威圧感を持って上空に存在していた。シルエラは、シロに確認する。
「お嬢様がお持ちのそのガントレットは、使用者の思考で大きさを変えられるのでしたね?」
「はい」
「それなら、神格を倒せる可能性があります。そのガントレットを巨大化させてください——あの神格よりも大きく」
シロは驚く。
「無理だよ……! そんなに大きくはできない!」
シルエラは、首を振る。
「今までのお嬢様であれば、そうだったかもしれませんね。ですが、あなたは今日、巨大な神格の存在を知りました。大きさというものは、比較対象があって初めて分かるものです。お嬢様の“巨大”という概念は、塗り替えられたはず。そうであれば、ただ、思い描けばよいだけです。あの神格よりも巨大なガントレットを」
シロは、しばらく悩んだが、やがて決意したように頷いた。
「……はい、やってみます!」
シロは静かに目を閉じて、ガントレットを構えた。
「お待ちください、お嬢様。ここで巨大化させるのは、まだ早いです」
その様子を見て、シルエラが制止する。
「ここでガントレットを巨大化させても、神格のところまで持ち運べないでしょう? 私が神格の上空までお嬢様を投げ飛ばします。そこで、ガントレットを最大限まで巨大化させてください」
それを聞いてシロは驚いたが、シルエラの真剣な表情を見て頷いた。
「それでは、失礼します」
シルエラは、そう言ってシロの足首を掴むと、逆さ吊りにして構える。
「少し乱暴ですが、我慢なさってくださいね」
そう言うと、シルエラは、ハンマー投げの要領でシロを持ち上げ、遠心力で回し始めた。絵面は滑稽だが、この攻撃に世界の行く末がかかっている。
「それでは——行ってらっしゃいませ、お嬢様!」
シルエラが力いっぱい叫ぶのと同時に、シロが空中に放り出される。シロは、砲丸のように空を切り裂き、神格の頭上に向かって突っ込んでいく。飛んでいくシロを見つめ、シルエラは小さくガッツポーズをする。
「どストライク、ですね」
「ああ」
見事なコントロールに、俺もうなずく。放り投げられたシロは、神格の頭上でちょうど推進力を失い、自由落下し始める。
「行けー! シロー!」
俺は、力いっぱい叫んだ。神格の上空で、シロが振り上げた両手のガントレットは、一回り、二回りと大きくなり、神格を覆い隠すほどに巨大化した。そして、その物量は、この星の重力に引きつけられ、轟音と共に神格を押し潰した。
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(次の話)
【マタタビ】30.夜明け
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